私的標本:捕まえて食べる

玉置標本によるブログ『私的標本』です。 捕まえて食べたり、お出かけをしたり、やらなくても困らない挑戦などの記録。

お雑煮で巡る日本空想旅行

※『地球のココロ』というクローズしたサイトで、2010年1月15日に掲載した記事の転載です。

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お雑煮とはおもしろいもので、「モチの入った汁」という基本は同じものの(モチが入っていない雑煮もあるらしいですが)、モチの形、出汁の種類、味付け、入れる具などが、地方によって全然違うものらしい。そこで、この正月休みは遠出ができなかったので、せめて日本各地の雑煮を調べてつくって食べることで、日本中を旅した気分になってみようと思う。

岩手の雑煮はクルミだれで食べる

最初にやってきた(気分でつくる)のは、まだ一度もいったことのない岩手県。一口に岩手といっても本州一の広い県土を誇っているので、いろいろな雑煮が土地ごと家庭ごとにあるとは思うけれど、今回試したのは三陸沿岸で作られているタイプである。

まず醤油などで濃い目に味付けした出汁に、冷蔵庫に入っていた鶏肉や野菜などを適当に入れて、具だくさんの汁を作る。岩手はサケの産地なのでイクラを入れる場合もあるらしいが、埼玉だと値段がなかなかお高いので、海がシケで不漁という設定にして入れなかった。

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ちょっと具だくさんすぎたかな。

モチは角モチを焼いたもの。具がたっぷりで栄養価も高く、ちょっと濃い目の味付けが、雪国の正月に似合うような気がする。数年ぶりに会うおばあちゃんに作ってもらって、掘りごたつで食べている気分でいただきたい。

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モチが見えませんが、焼いた角モチが入っています。

このできあがった雑煮、このまま食べると思いきや、なんと岩手の一部では、この雑煮のモチにクルミだれをつけて食べるらしい。

なんでも岩手ではおいしいものを「クルミ味」と表現する文化があり、お正月に食べる雑煮にも、醤油と砂糖で味付けしたクルミのたれをつけるのだ。私にはクルミがごちそうというイメージがないのだが(というか、食べる機会がほとんどない)、脂肪分の多いクルミの味は、きっとこの地方では貴重なごちそうだったのだろう。

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雑煮にする意味がよくわからない食べ方だなと正直思った。

雑煮のモチをタレで食べるという食べ方を疑問に感じるが、鍋だってポン酢やごまだれで食べるしなと考えて、醤油味の汁が滴るモチにクルミだれをたっぷりと付けて食べてみた。

これがなんと、汁が染みてちょっとふやけたモチと甘いクルミだれの相性ばっちり。もちろんタレをつけずにそのまま食べてみてもうまいのだが、クルミだれで食べた後だと、なんだか物足りなくなってしまうのだ。

雑煮にクルミだれ、イメージしづらい組み合わせだが、一度試してみてほしいお雑煮である。なんだか元気になる味で、これを食べれば雪かきだってどんとこいだ。

福井の雑煮はとてもシンプル

二日目は太平洋側から日本海側へと場所を移し、福井県へとやってきた。福井の雑煮というと、名産の越前ガニあたりをドーンと入れた豪華なものかと思ったら、小料理屋で料理の締めに出てきた雑煮(と思いこんで)は、以外にも昆布だしに丸モチを入れて煮て、味噌を溶くだけという、きわめてシンプルな雑煮だった。具はカブやニンジンを入れる家庭もあるけれど、今回はシンプルに徹してみた。

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仕上げに鰹節をたっぷりと乗せる。

このタイプのお雑煮はまったくの初体験で、味噌汁の具がモチになっただけにしか見えない。それってどうなんだろうなと思って食べてみたのだが、これが好みの味だった。

溶けたモチで少しトロっとした味噌の汁がうまい。お正月に豪華なおせち料理を食べて、ちょっといい日本酒を飲んで、気持ちよくなってきたところでこのシンプルなお雑煮が出てきたら、たまらなくうまいことだろう。

東京もシンプルな雑煮

三日目は一旦旅先から帰宅をして、ちょっと東京の親戚宅にあいさつがてら、江戸っ子の雑煮をいただいてこよう。という設定で、かまぼこと小松菜だけで粋な雑煮を作ろうとしたのだが、冷蔵庫にあったかまぼこがチーズ入りだった。

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イカの形をしたチーカマだったのか。気にせず入れてしまえ。

江戸っ子は野暮を嫌い、粋を大事にするという。福井と同じく、ごちそうはおせちをたっぷりと食べ、雑煮くらいはシンプルにという考えなのだが、かまぼこに入っていたチーズがプカプカと浮かぶ雑煮は、野暮の極みといっていいだろう。

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あーあ、やっちゃった。

汁は出汁に醤油と酒、モチは角モチを焼いたもの。トースターでモチを焼いたら、膨らむばかりで焦げ目がつかなかったけど。小松菜は東京原産の野菜で、「名(菜)を上げる」ということで入れてみた。

これは想像通りの安心できる味だったが、お雑煮にチーカマを使っている家庭はないよなと思う。大正生まれの生粋の江戸っ子に出したら、思いっきり怒鳴られるに3000点。

京都は白味噌のお雑煮

四日目は気を取り直して京都までやってきた。京都という場所は学生時代に修学旅行できた位で、大人になってから一度も訪れたことのない、私に縁の薄い場所である。実家の京都に戻って呉服屋を継いだ大学時代の友人宅を尋ねた気分で雑煮を作る。

京都のお雑煮といえば当然西京味噌、白味噌なのだが、私はこの白味噌というのをほとんど食べたことがないので、味が全く想像できない。

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今日のために初めて白みそを買いました。

京都風にも作り方はいろいろあるが、雑煮は精進料理の延長という考えで、白味噌の風味を生かすべく昆布のみで薄めに出汁をとる案を採用。物事が丸く収まるようにと、具は大根と人参を丸く切たものを入れる。モチも当然丸モチ。

できあがった京都風雑煮は、埼玉県民にはホワイトシチューにしか見えなかった。

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シチューはご飯にかける派です。今日はモチを入れたけど。

もしかしたらなにか根本的な部分で勘違いをしているような気もするけれど、とりあえず食べてみる。

白味噌って、甘いんですね。味噌なのに甘いというのがカルチャーショック。一口食べて、間違えてホワイトチョコでも入れたのかと脳が軽くパニックを起こした。赤味噌も白味噌も、原料は大豆、米、塩、麹と同じなのに、ここまで味が違うとは。個人的にはクルミだれで食べる雑煮よりもびっくりする味だった。奥が深いぞ、京都。

「白味噌の味がわからないなんて」と京都の人に思われてしまいそうだが、この味に慣れるまでちょっと時間がかかりそうだ。自作の適当な雑煮ではなく、ちゃんとした京都の雑煮を食べれば、また感想も違うのだろうけれど。

いきなり飛行機でタイに飛びます

最終日は「めでたい」ということでタイの雑煮。魚のタイではなくて、ムエタイのタイ。もちろんタイで雑煮を食べる習慣はないので、これは私のオリジナルである。現地で知り合った人に日本からのお土産でおモチを渡したらこれをつくってくれた、というイメージでいってみよう。

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友人からタイ旅行土産にもらったトムヤムクンの素でつくります。

作り方がタイ語で書かれていて全然分量とかわからなかったので、適当な量のお湯で溶かし、エビとブロッコリーを入れてみた。入れてからブロッコリーはタイっぽくないなと後悔した。モチは変化球で角モチを焼かずに煮てみる。

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タイ(国)とエビ(具)で、めでたいお雑煮になりました。

見た目が味噌汁っぽいので油断して食べたのだが、さすがタイのトムヤムクンスープだけあって、むせかえるほど辛かった。一気に日本の冬を忘れさせてくれる南国の味。

しかし、モチでとろみの出たスープは悪くなく、ちょっと癖になる味である。肝心のモチとスープの相性も、お雑煮だと思わなければ違和感なし。モチって結構グローバルなのかもしれない。

お雑煮で巡る日本+タイ。これで旅行をした気分になったのかと聞かれると、そこは首を大きく横に振らざるを得ない。しかし、これはこれでおもしろい発見の連続だったので、来年はほかの地域もまわってみたいと思う。できれば空想じゃなくて実際の旅行でね。

 

 

 

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