私的標本:捕まえて食べる

玉置標本によるブログです。 捕まえて食べたり、お出かけをしたり、やらなくても困らない挑戦などの記録。

漁業という日本の問題を知ろう 勝川俊雄さんインタビュー

※『地球のココロ』というクローズしたサイトで、2012年9月18日に掲載した記事の転載です。

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「漁業という日本の問題」「日本の魚は大丈夫か」の著書である、三重大学生物資源学部准教授の勝川俊雄さんに、日本の漁業の問題点と、我々消費者がやるべきことを聞いてきた。このままだと、確実にダメになるみたいです。

日本の漁業が、無規制の乱獲によって崩壊している

地球のココロ編集部の清水さんから、三重大学生物資源学部准教授の勝川俊雄さんに、ぜひインタビューをしてほしいという連絡をいただいた。

大学の先生にインタビューなんて荷が重そうだなとは思いつつ、とりあえず勝川さんの書かれた「漁業という日本の問題」、「日本の魚は大丈夫か」の二冊を読んでみると、消費者の立場からは知りえなかった日本の漁業に関する重大な問題が、目の前に突き出された感じがした。

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気になるところに付箋を貼ると、付箋だらけになる本です。

日本の魚は大丈夫か 漁業は三陸から生まれ変わる (NHK出版新書)

日本の魚は大丈夫か 漁業は三陸から生まれ変わる (NHK出版新書)

 
漁業という日本の問題

漁業という日本の問題

 

このままいけば、早い者勝ちによる乱獲をせざるを得ない漁業制度によって、日本の海から魚がどんどんいなくなってしまう。

この本を読んでいて、胃がキリキリと痛んだ。

ということで、どうぞ皆さんも、この勝川さんへのインタビューを読んで、一緒に胃をキリキリさせてください。

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編集部の清水さんと三重大学までいってきました。

ウナギは食べてもいいのでしょうか?

このインタビューの発端は、地球のココロ編集部の清水さんが、お昼御飯にウナギを食べていいのか迷ったことから始まっている。

清水:「この前、お昼にランチを食べに行った店が、ウナギと焼き鳥の店だったんです。メニューに『国産のウナギ、あります!』ってデカデカと載っていたのですが、テレビではウナギの稚魚不足で値段が高騰というニュースが流されていました。店員さんにおすすめされて食べたのですが、本当に食べてよかったのかなというのが気になって、ツイッター(https://twitter.com/katukawa)や著書を拝見させていただいていた勝川先生の意見が聞きたくて、勢いでメールさせていただきました。」

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地球のココロ編集部の清水さん。

勝川:「ウナギはね、稚魚の漁獲量も成魚の漁獲量もすごく減っています。研究者なら誰に聞いてもそういうと思うんですけれど、かなり危機的な状況まで減っています。それもここ何年か減っているという話ではなく、もう何十年も減少傾向なものを放置しておいて、今に至っている訳です。」

「ウナギがここまで減った理由というのは、一体なんなのですか。」

「いくつかの要因があって、まず河川の工事。ダムや堤防などの建設によって、ウナギの住処が奪われたということ。そして河口で網を張って根こそぎ獲っちゃうような獲り方ですね。水産資源は減りすぎると、元に戻る力が失われてしまうんです。だから、養殖業者や蒲焼屋がバタバタと倒れちゃう前に、きちんと産卵する魚を海に戻すための環境整備なり、漁獲規制なりをしなければならなかったんです。再生産していく環境があれば、今みたいに減らなかったはずです。」

「何十年にも及ぶ環境破壊と乱獲が原因ということですか。」

「何十年もの間、なんでなにもしなかったのかということを含めて、我々は考えていかなければならないと思うんですよね。ウナギに関して言うと、もう既に手遅れかもしれない。一方でシラスウナギ(養殖をするためのウナギの稚魚)が高騰しているため、密漁などを含めて、対応が難しくなっています。これが今後、すんなりと実効性のある対応策が出てくるとは思えないんです。

玉置:「自分もウナギ釣りをしたり、安いウナギを食べたりするので偉そうなことは言えないですが、そこまでひどい状況だとは思っていませんでした。」

「ウナギは大回遊する生息域の広い魚です。中国とか台湾を含めて、親を海へと産卵回遊させる枠組みをつくるための時間というのは限られています。国の方もようやく動き出しましたが、中国、台湾と、なにかやらなきゃいけませんねっていう会をやっただけ。具体的に何かっていう段階ではないし、ここまで減ってしまうと、仮に全面禁漁したとしても、回復するかどうかかなり微妙な水準です。」

ヨーロッパウナギを食べつくした日本人

「日本のウナギだけではなく、ヨーロッパのウナギも激減しています。ヨーロッパでは2008年からほぼ禁漁に近い措置をとっているけれど、全然回復していないんですね。」

「ヨーロッパのウナギが激減したのは、中国などでウナギを養殖するために、ヨーロッパの漁師がシラスウナギを獲りつくしたということですか。」

「そうです。そして、その輸出先は日本です。でも日本人はヨーロッパウナギを大切に食べていたでしょうか。今日は手抜きをしたいからとか、国産ウナギが高いからとか、そんな感じ。はっきりいえば食べ散らかしてきたのです。その結果がどうなったのかというと、ヨーロッパウナギを激減させて、現地の伝統的な食文化を破壊してしまった。しかも、そういうことを日本の消費者はまるで知らない。」

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三重大学生物資源学部准教授の勝川俊雄さん。

「すみません、知りませんでした。」

「誰も伝えないから、知りようがないですよね。ある意味、日本の消費者の意識はすごく低いですけど、それは情報が与えられていないから、仕方がない面もあります。でも、こういう話をしていくと、ちゃんとやらないとダメだよねっと、みんな言ってくれます。」

「はい。話を聞けてよかったです。」

「マスメディアの報道をみていても、ウナギが減って漁師や養殖業者が大変ですとか、今度はアフリカから輸入しましょうとか、完全養殖をがんばりましょうとか、そういう報道ばかり。自分の国にこんな良いウナギ資源があったのに、ヨーロッパを含めてこんな状態にしてしまったという反省が全然ないんです。」

「2007年にヨーロッパウナギがワシントン条約で規制されたときにも、日本の消費者は『安いウナギが食べられなくなる!』みたいな被害者側の感覚があったかもしれません。」

「これを機会に考えて欲しいんですよ。我々の魚食は、天然の生態系に依存しています。野生生物を食べる以上、その持続性に対して、我々一人ひとりが責任を負っているんだという意識をもってほしい。おいしい、おいしいと食べるだけではなく、この『おいしい』を未来に残していくために、我々は食べ方を考えなくてはいけない。ウナギっていうのは一つの文化じゃないですか。それがウナギ資源を食べつくしてしまうことによって、おそらく近い将来食べられなくなる。これは未来の世代に対して申し訳ないことだと思うんですよね。」

「食べられなくなる...。」

「ここで大切なのは、ウナギがこんなことになってしまって、そこから学ばなければならないということ。こういうことを繰り返してはいけない。」

ここから話は日本の漁業全体における問題へと進んでいきます。今後も魚を食べたいと思っている人は、ぜひ続けて読んでみてください。

このままでは、ウナギだけではなく、マグロもサバも食べられない未来が待っているようです。

日本人の魚離れが進んでいるのではなく、日本から魚が離れていっている

「勝川さんの本を読んでまず驚いたのが、日本人が今のように本格的に魚を食べ始めたのが、太平洋戦争後であるということでした。日本人は昔からたくさん魚を食べていたイメージがあったのですが。」

「たとえばお年寄りに聞いてみると、そんなに昔から魚を食べていなかったという話がでてきます。よく考えてみると、冷蔵庫がない時代に、農村部で魚を日常的に食べている訳がないですよね。今みたいに日本全国で魚を日常的に食べられるようになったのは、冷蔵庫の普及と歩調を合わせているんです。我々の記憶では昔から食べていたような気がするかもしれないけれど、統計を見てみると、そうではない。明治、大正の人達は、そんなに魚を食べていなくて、お正月にタイを食べるとか、そういうレベルでした。」

「確かに冷蔵庫がなければ、生の魚は運べませんね。当たり前のことなのに、理解していませんでした。」

「もちろん漁村地域には魚を食べる伝統はありましたけれど、日本全国津々浦々というものではなかったんです。それが戦後の食糧難で、動物性たんぱく質の不足を補うために、国策として漁業であったり捕鯨であったりといったことが勧められて、戦後の人達に急速に広まったという流れがあります。」

「もっと魚を食べましょうという話をよく聞きますが、こんなに魚を食べるようになったのは最近の話なんですね。」

「そして乱獲の結果、漁獲量が急激に減っているのを、今は輸入で賄っている状態です。日本人が魚離れをする以前に、魚が日本の海からいなくなっています。」

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魚介類の国内生産と輸入量のグラフ。国内生産の落ち込みを輸入で支えている状況。『「魚離れ」という嘘』より抜粋。

「昔と比べると、水産資源が減ってしまっています。そうすると漁獲量が落ちるだけではなく、以前は水揚げしていなかったような小さいもの(未成魚)まで獲っちゃうようになるんです。小さいものは大きいものに比べれば二束三文ですが、ゼロよりはいいだろうと、みんなで獲ってしまう。そうすると、当然価値が高い大きな魚はもっと減っていきますよね。そして卵を産む成魚も減ります。」

「大きな魚を獲ろうとしたら、小さい魚も獲れてしまったので、それを有効利用しようというのなら話はわかりますが、大きな魚が獲れないからといって、小さい魚を狙って獲ろうとすることがダメだというのは、素人でもわかります。」

「水産資源を獲ること自体が良いか悪いかではなく、その資源を十分な親を残して、持続的な状態で、かつ価値が高いタイミングで獲る。それがポイントなんですね。今の漁業は、自分の未来を食いつぶしているようなものです。魚が減っていることは事実なんです。地球の温暖化やクジラが悪者にされるんだけれど、それだけじゃない。やっぱり漁業の責任も大きいんだと自覚しなければならない。」

「日本の漁業の悪い例として、サバの乱獲が本に書かれていました。マグロが減っているというのはよく聞きますが、サバならまだまだ日本の海にもいっぱいいるイメージなのですが。」

「サバは資源量をみてみると、ものすごく低いんですよ。なぜなら大半を0歳、1歳という未成魚の段階で獲っちゃうんですね。サバがまだ多いというのは、まったくおかしな認識だと思います。なぜそう思うんですか?」

「ええと、大衆魚というイメージと、魚屋にいけば必ず並んでいるからです。」

「でもよく見てみると、ノルウェーのサバだったり、ゴマサバだったりしませんか。型がいい食用サイズのマサバは、今や高級魚といってもいい値段です。干物などの加工屋だって、今は日本のマサバが安定的に入手ができないから、ノルウェーまでわざわざ買いに行かなくてはいけなくなったという歴史があるんです。」

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確かに魚売り場をよく見てみると、ほとんどがノルウェーなどからの輸入品でした。

「そうはいっても、一人の漁師がサバを獲るのを我慢したところで、その漁師が数年後に大きなサバを獲れるようになるかというと、ならないんですよね。これが農業だったら、大きくなってから収穫すればいいだけの話ですが。」

「日本の沿岸には小さな漁業組合が山のようにあり、それぞれの漁場を持っている。その漁場の中は好きにしていいですよっていう話なのですが、魚は当然動きますから、自分の漁場の中だけでどれだけ魚を守ろうとしても、魚が漁場の外に出たら誰かに獲られてしまうかもしれないし、戻ってくる保障もない。だから個人で漁獲規制をしろといっても、無理なのです。今の枠組みで合理的に利用できるのは、狭い漁場の中で動かないもの。たとえばアワビやウニのように、移動せず、顔が見える範囲で利用している資源は管理できる。しかし、移動をする大規模な資源は、構造的に無理なのです。」

「一人の漁師や一つの漁協が漁獲規制をしても、隣の漁師や漁協が喜ぶだけでは、誰もやらないですよね。」

「漁獲の大半は、移動性の大規模資源が占めている。たとえばクロマグロにしても、北海道から沖縄まで、全国の漁師がいろいろな漁法で好きに獲っているわけです。クロマグロが減ったから漁獲規制を漁業者主体でやるのは無理です。皆で集まって話し合う場すらないのだから。それなのに漁業者の意識が高いから何とかなるなんて、そんな馬鹿な話はないです。漁師は明日どうなるかわからないから、親の仇と魚は見たら獲れとかいう風になっているのだけれど、それは今のような早い者勝ちの漁業制度である限り、当然です。日本の漁業者は意識が低いから乱獲する訳でもなくて、乱獲せざるを得ないような制度の元で漁業をしているから、乱獲をしちゃうんです。」

「ようやくこの問題の本質がわかってきた気がします。」

「完全に制度の欠陥が原因であって、乱獲しないで大きくなってからちゃんと獲れるような仕組みに変えていけば、漁業者にとっても、消費者にとっても、将来にとって大きな利益を生む訳です。それのために、どの様な制度を導入すればいいのかっていうのを議論していかなければならない。」

資源管理で漁業が立ち直った国がある

「私は放射能問題から先生の本を読んだクチなのですが、本を読んで初めて魚がそんなに足りないんだ!っていうのがわかりました。日本は魚が減っていますっていう報道がないからだと思うのですが、なんでそこまで隠しているというか、消費者が気づかないようにしているのでしょうか。」

「漁業って知っているようで知らないじゃないですか。日本の伝統的な産業で、身近にあるような気がするけれど、ほとんどの人は、漁業の現場を見たこともなければ、漁業者に知り合いもない。というのも、漁業っていうのは閉鎖された隔離社会で、外部との接点がすごく少ないんです。その中で、漁業者がわざわざ自分の都合が悪いことを外にいう訳ないですよね。現場を知っているのは業界関係者しかいないんです。」

「だから何十年も隠してきてしまったということなんですね。」

「漁業関係者がそういうふうに問題に向きあってこなかったが故にこんなになっちゃったというのはある訳です。もうこれはちゃんと社会として取り組んでいかなければならない問題であって、漁業関係者の都合だけで決めて良い問題ではない。未来の食卓が掛かっていますから、きちんと情報を出して、さあどうするということを、消費者を含めて考えていかなければいけない。」

「でも海の魚は漁業権を持っている漁師のものという感じがして、一般消費者側から漁業者に対して、なにもいえないような印象があります。」

「漁師も、海は自分たちのものだと思っているけれど、実はそうじゃないんです。排他的に漁をする権利を彼らは与えられているだけであって、後は野となれ山となれみたいな獲り方をする権利はないんです。国連海洋法条約というのがあって、その条約によって日本も200海里の資源を排他的に利用できる権利を得ているんですけれど、その条約によると、水産物は人類共用の財産となっています。ただ、みんなが無規制で捕ったら乱獲になってしまうから、沿岸国がきちんと持続的に利用する義務を負う代わりに、排他的に使っていいですよということになっているんですね。」

「単純に自分の国の海として、自由に使っていいという話ではないと。」

「だから日本が200海里の水産資源を排他的に利用する以上、持続的に管理する義務を負っているんです。国際法的に見ても、今のように資源管理をしていない状態は、無責任と言われても反論しようがないですよ。きちんとした漁獲規制をやっていないが故に魚がどんどん減っている現状は、消費者にとっても、漁師にとっても不幸だし、国際条約違反で、国としても無責任です。」

「資源管理をちゃんとやって成功している国というのが、本に書かれていたノルウェーとかニュージーランドなのですね。」

「実際に現地へ行って、行政とか漁業者とか組合に聞きとり調査をしましたが、どっちの国も漁業者は最初反対しているんです。やっぱり規制って嫌じゃないですか。今まで好きなだけ獲れていたものが、獲る量を決められてしまう訳です。今でも生活が厳しいのにどうするの?ってみんな思うわけですよ。だからどっちの国の漁業者も猛反対した。」

「漁業者側が反対するのはなんとなくわかります。それでも漁獲規制を導入できた理由はなんなのでしょうか。」

「この二つの国は環境保護団体の力がすごく強くて、規制を入れさせちゃったんです。でも漁獲できる上限が決まっていた方が、漁師は大きい魚を狙って獲るようになるから、魚価も上がるし、魚も増えるしで、5年もしないうちに漁業がどんどん儲かるようになったんです。」

「確かに先生の本にありましたが、10円玉と500円玉が混在している状況で、早い者勝ちで好きなだけもらえるとなれば、それが10円玉だろうとあるだけ持って帰ろうとしますが、決められた枚数しか持って帰ってはいけないというルールならば、10円玉にあたる未成魚は見逃して、成魚にあたる500円玉だけをがんばって集めますね。そして10円玉が500円玉に育っていく。」

「漁業が儲かるようになると、どちらの国の漁業者も、資源管理は必要だと意識が変わる訳です。やってみてうまくいくと、みんな現金なもので、そのシステムを支持するんです。ノルウェー、ニュージーランドが資源管理を始めた時は、成功例がなかったんですよ。今はそういう風にやればいいんだと世界中がわかったから、自分の国の漁業に個別漁獲枠制度という資源管理を、どうやって入れようかという議論をしているのに、未だになにもやっていないのが日本なんですよね。ちゃんとやるようにと問題提起し続けているのですが、結局やらない理由を並べて終わりですからね。」

環境保護団体が果たした役割

「漁獲量規制導入の力になったという、環境保護団体の役割を教えてください。」

「日本の中で科学的な政策議論をできる人はほとんどいないですよね。いたとしても、国の審議会とか、国家権力のサイドに入ってしまっているから、在野に突っ込みをいれられる人がいない訳です。だから専門知識を持っていて、かつ権力とは独立した人達が必要なんです。医者に行って、この診断はどうなのかなって思ったら、セカンドオピニオンを受けますよね。そのための医者を自前で賄っているのが環境保護団体。環境保護団体は民間資金でやっていますから、権力から独立している。そういうものを民間で支えなければいけないよねっていうカルチャーが海外にはあります。民間資金を得るためにセンセーショナリズムに走りやすいという問題点があるんですけれど。」

「環境保護団体っていうと、クジラやイルカを守っている過激な団体をイメージしてしまい、どうも協力する気にならないのですが、サバを守っている団体もあるのですか。」

「実際、海外でもそうだったんですよ。でもここ10年、20年くらいで、一部の団体の中には、漁業を全否定していても仕方がないから、漁業の中でも持続的なものを応援していこうという動きが出てきました。消費者から見たら、どの魚が持続的な漁業で獲られたかなんてわからないじゃないですか。値段だけみたら、持続性なんて無視して獲った魚の方が安いですよね。でもそれじゃダメだから、ちゃんと消費者の消費段階で見分けがつくようにしようと、MSC(Marine Stewardship Council = 持続可能な漁業で獲られた認証水産物)のエコラベルというものが世界的に普及してきました。海外では、小売り段階でMSCのエコラベルが付いていない魚は扱いませんよっていう方針を出しているところも多いです。」

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エコラベルを認証している Marine Stewardship Council(海洋管理協議会)

「そのエコラベルというのは、日本でも導入されているのでしょうか。」

「イオンがだいぶ前からMSCを入れていますが、顧客認知度が非常に低く、このラベルに対してプレミアムがとれるような状況ではありません。水産資源の持続性の問題っていうのが、消費者にも責任があるという意識がないじゃないですか。消費者サイドで持続的な水産物とそうでないものを見分けたいっていう需要がないから、エコラベルを張っても無駄なんです。消費者が、この問題を考えなきゃいけないなと思って、じゃあどうやって見分ければいいのっていうことになれば、エコラベルは一つのツールになるんです。」

消費者も健全な外圧になろう!

「日本では環境保護団体の力が弱いとはいえ、資源管理による成功例が海外にあるのに、それでもやらない理由はなんなのでしょう。」

「水産庁は、日本は漁業者が自主的にうまく規制しているから必要ないといっています。サバはほとんど未成魚で獲っちゃっているのだから、自主規制が機能していないのは明白です。でも、日本は漁業者の意識が高いから海外と違って乱獲の問題はないですよっていったら、一般の人はだませちゃうじゃないですか。それで、だまされちゃうからダメなんです。」

「今まで消費者をだませてきたから、今後も漁獲規制なんてやらなくても問題にならないだろうと。」

「水産庁は漁獲規制ができない理由ばかりを並べるけれど、世界的に見てこんなに恵まれている国は他にありません。人件費の高いノルウェーで、わざわざ運賃掛けてサバを日本に運んでも、十分儲かっています。こんないい市場が自国にありながら、自国のサバは養殖魚のエサにしかならないサイズで獲ってしまう。こんなバカな話はないでしょう。」

「私もできれば国産のサバが食べたいです。」

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旬の太った日本のサバは、抜群にうまいのにね。

「いい状態のサバを安定的に水揚げできる制度に切り替えれば、日本の漁業は何倍も儲かります。やらない言い訳を並べるんじゃなくて、できるところからやっていこうよって、なんでならないんですかね。」

「...なんでですかね。」

「やっぱり最終的には外圧が無いからなんですよ。水産庁の中にも問題意識を持っている人は実際います。でも水産業界は反対、政治家も地元の漁業者から陳情されて反対、役所全体としてはハードルが高いからやりたくない。そういう状態で、規制を導入するのは無理だと思います。そういう人達が動けるような状況っていうのを、世論が後押ししないといけないですよね。」

「世論が変われば、漁業の在り方も変わりますか。」

「未来の食卓から魚を奪って安く食いつくそうと思っている日本人なんていないと思います。でも結果的にやっているのはそういうことなんです。自分たちが何をやっているかという自覚を持ってもらえれば、必ず変われると思うんです。消費者が、魚を持続的に獲ってくれ、そういう魚だったらちゃんと買うよ、という風に意識を変えていけば、漁業は変われるんですよ。逆に、外圧がない状態で、業界が自己改革するのはちょっと無理かなと。急がば回れじゃないけれど、地道に消費者教育していくしかないのかなと思っています。」

「今日一日でだいぶ教育していただいた気分です。」

「ここで一番がんばらなければならないのが、我々研究者だと思うんですね。日本の漁業制度のどこが間違っていて、こういう風にしたらこんなに良くなるよっていうのは、我々専門家がきちんと言うべきじゃないですか。それをやらないのだったら、なんのために水産学があるのか。業界や水産庁から嫌がられても、やっぱりそこは言わなくてはならない。言えないんだったら、実学としての存在価値がないと思います。」

どうでしょう、これを読んで胃がキリキリしたり、胸がムカムカしたでしょうか。私はこの記事を書いていて、またキリキリしてきました。勝川さんの本には、今回のインタビューで伺った話以外にも、様々な漁業に関する問題点、そしてそれに対する改善案が書かれています。現場の漁師の目線からではなく、水産学者による漁業を俯瞰した目線での問題提起です。抱卵したクロマグロを獲る話とか、かなりひどいことになっています。

私個人としては、まずはスーパーや魚屋で購入する魚を選ぶ際に、水産資源の持続性を少しでも考えて買うということを、とりあえず始めてみようと思います。あとウナギ釣りにおける自分に対する個別漁獲枠の設定、いや全面禁漁をします。

 

【参考サイト】
勝川俊雄 公式サイト

 

 

 

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