私的標本:捕まえて食べる

玉置標本によるブログ『私的標本』です。 捕まえて食べたり、お出かけをしたり、やらなくても困らない挑戦などの記録。

ダチョウは日本の食を変えるのか?ダチョウ肉の試食会をしてみた

※『地球のココロ』というクローズしたサイトで、2013年12月10日に掲載した記事の転載です。

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国産ダチョウ肉の普及に人生を掛けた青年がいるというので、実際にダチョウの肉を食べながら、その愛をたっぷりと語っていただいた。

ダチョウの魅力に憑りつかれてしまった男

ダチョウといえば、だいぶ前にそのタマゴを取り寄せて食べたことがあるけれど、白身が多くてそれほどおいしいものではなかった。そのため、まだ食べたことのないダチョウの肉にも、あまり良いイメージを持てていない。

だってダチョウである。

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足が速そうだとは思うけれど、おいしそうというイメージが全然ない。

そんなダチョウを愛してしまったのは、加藤貴之さんという青年。

「おもしろい男がいるんだよ」と友人から紹介されたのだが、さすがはダチョウ好きだけあって、顔がダチョウに似ているような気がする点がおもしろい(失礼!)。

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ダチョウを愛した男、加藤さん。顔がダチョウに似てない?

彼の肩書きは、ご自身が立ち上げた株式会社Noblesse Obligeの代表取締役ダチョウである。社長ではなくダチョウ。本当に名刺にそう書いてあるのだ。

前職は広告関係の仕事で、テレビ番組や街頭ビジョンの制作などをやっていたそうだが、震災の影響で仕事がストップしてしまった。そんな時にダチョウを飼育する牧場の人と運命の出会いがあり、「食べたらうまかった!」というシンプルな理由から、ダチョウ肉の未来に人生を掛けることにしたらしい。

とはいっても、彼が自分の牧場でダチョウを育てているわけではなく、美味しいダチョウを生産している牧場と契約して、完全成功報酬型ダチョウ専門PR会社としてやっているのだそうだ。まだまだ知られていないものを、より多くの人に知ってもらうことに喜びを覚えるという彼にとって、これは性に合った仕事なのだろう。

そしてレストランなどにダチョウの売り込みを続けていくと、「じゃあそれはどこで買えるの?」という話になるので、現在は「Queen's Ostrich」というダチョウ肉のブランドを立ち上げ、卸し売り業とネットでの小売業もおこなっている。

現在は取引のある十数店舗で、加藤さんが吟味したダチョウ料理が食べられるそうだ。

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とりとんで待ち合わせと言われて、晴海のトリトンスクエアかなと思ったら、池袋の居酒屋だった。

ダチョウについてのお勉強

今日は加藤さんが用意したダチョウの各部位を使った、普段お店では出していないような料理長特製のスペシャルメニューが楽しめという趣向である。

料理ができる前に、加藤さんからダチョウの歴史を簡単に教わろう。

まずダチョウの羽根は、古代エジプトでは神話の神々やファラオの装飾につかわれており、また中世ヨーロッパでは騎士や貴族の兜や帽子の装飾品に欠かせないものとなっており、生産国である南アフリカでは主要貿易品だったそうだ。

現在でもダチョウの羽根は、イギリスのプリンス・オブ・ウェールズの徽章などのモチーフになっている。宝塚歌劇団とかの人たちが被っている派手な帽子の羽根も、たぶんダチョウの羽根だ。

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ダチョウの帽子をかっこよくかぶったマリーアントワネット。

またダチョウの皮を使って、高級なカバンなどの革製品なども作られている。そう、オーストリッチというやつだ。

オーストリッチって、オーストラリアの高いリッチな革製品だと思っていた人も多いと思うが(私だけか)、ダチョウの革製品のことだったのである。

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加藤さんの持つオーストリッチの携帯ケースと名刺入れ。この模様、ダチョウの毛穴だったのか。

そんなダチョウの生産国である南アフリカでは、金、ダイヤ、羊にダチョウが並ぶほどの主要貿易品だったため、国外への種卵・種鳥の輸出が禁止されていたのだが、ようやく20年前に解禁され、世界中で飼育されるようになった。

ダチョウは南アフリカ以外の国では、とても新しい家畜なのである。牛などに比べると、生産効率がとても良いのだとか。

20年前といえば、日本ではその頃がバブル崩壊の時だったため、企業などが買ったはいいけれど使い道に困っていた土地を使ってのダチョウ牧場が全国にいくつも誕生したのだが、品質の良いダチョウを育てるノウハウがまだなく、期待の割には高く売れなかったため、現在は観光用のダチョウ牧場となっているところが多いらしい。

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僅か20年前に南アフリカ以外での飼育が始まったそうです。

しかし日本国内にも、食肉用のダチョウを出荷するために本気で取り組んでいるところがいくつか出てきて、そこのダチョウはまったく違う味がするらしい。加藤さんが扱っているのは、そういったダチョウなのである。その中でもおすすめは、埼玉県にある美里オーストリッチファームなのだとか。

今日用意していただいた肉もそこのもの。飼育環境や与えるエサによって、ダチョウの味は全然変わってくるそうで、ダチョウの肉に対してあまり良いイメージを持っていないという人は、最初に質の悪いダチョウを食べてしまったのかもしれない。

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ミサトオーストリッチファームでエサ用に育てられているクワの葉っぱ。カイコの好物ですね。

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オカラをあげたりもするらしい。

生で食べられるダチョウの肉

前段の話がちょっと長くなったが、それではお待ちかねの試食タイムである。メニューは加藤さんのお任せコース。

「ダチョウに合うワインはどれでしょうか?」とか、なかなか聞けない会話がテーブルの上では飛び交っている。

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この店では、加藤さんが卸しているダチョウが、秋田が誇る比内地鶏と並んでメニューに表記されている。

最初に出されたのは、モモ肉のタタキだろうか。これがクセがなく甘みもあって美味しかったのだが、残念ながらこれはダチョウではなく比内地鶏だそうだ。

なるほど、比内地鶏はおいしい。

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この肉うまい!って思ったら、これは比内地鶏だった。

そんな茶番は置いておいて、続いて料理長が「これはハズレかも…」と申し訳なさそうに持ってきたのは、ダチョウのレバーの刺身である。

ダチョウ肉の魅力は、生食が可能だということ。牛レバーの生食禁止騒動が記憶に新しいが、ダチョウには病原菌がとても少なく、人間に悪さをするような寄生虫もいないため、日本人が大好きな生食ができるのだという。これはうれしい。

ダチョウの生食を取り締まる法律は今のところないのだが、ダチョウ専門の食肉処理場では細菌汚染を防止するための適切な処理が行われており、保健所による自主検査でその安全性が確かめられている。(日本オーストリッチ協議会参照

またダチョウは丈夫で病気もしにくく、飼育時に抗生物質などが不要なので、その面でも安心だ。もちろん安全に生食をするためには、調理するお店の衛生管理が行き届いていることが必要なのは、どんな食材でも一緒だが。

しかし、このレバーはどうもハズレのようで、うまいのだけれど確かに血抜きをしていないカワハギの肝のような臭みがあり、生ではちょっと抵抗がある感じ。持ってきた加藤さんも悔しそうだ。まだ生産量が安定しない状況では、こういうこともあるのかな。

もしこれがアタリのレバーだったら、相当美味しいのだろうという可能性は大いに感じる。

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まずはレバーの刺身から。ハズレだけど、このクセは嫌いじゃない。

続いて食べたのはモモ肉の刺身。これは拍子抜けするほどまったくクセがなく、素直においしかった。一度冷凍したものとは思えないクオリティである。

その身は完全な赤みで、脂っぽさがまったくなく、それでいて程よく柔らかいのだ。鶏のモモ肉よりも、馬や羊の方が近いかな。

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モモ肉は最高の赤身ですね。

続いてはハツの刺身。心臓である。牛ですらハツの刺身というのは食べた覚えはないのだが、これがとってもうまかった。運動量の多さを感じさせる発達した心臓の筋肉は、クセがなく滑らかで柔らかい。とびきり新鮮なカツオの血合いのような、いい意味での血の味がする。

内臓系が好きな人は、絶対に一度は食べた方がいい味である。

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ハツ(心臓)もクセがまったくない。

続いては砂肝。砂肝の刺身は鶏料理屋でも食べたことがあるけれど、一切れが小さくてさびしい思いをしたものだが、ダチョウの砂肝はボリュームたっぷりなのがうれしい。

程よい歯ごたえがあり、そしてほんのりと甘みを感じる。

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どれも本当に美味しい。願わくば量が三杯になってくれるといいのだが。

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同席した方に、「だんだんダチョウに似てきましたよね?」と言われていた加藤さん。

ダチョウの食肉処理場は、日本には数箇所しかないこともあり、流通するダチョウ肉は生食用も含めてほとんどが冷凍品となっている。

ただし冷凍とはいえ、食肉処理場で部位ごとに真空包装され、急速冷凍処理を施されているため、ほとんど味は損なわれていないそうだ。

それでもやっぱり冷凍されていないものを食べてみたいというニーズは多いだろう。マグロでも牛肉でも、やっぱり生の方がおいしく感じる(気がするだけかもしれないが)。今後ダチョウの取扱量が増えていき、もしチルドでの流通が始まれば、ダチョウはまた一段食材としてのランクが上がる気がする。

ダチョウは火を通してもおいしい

ここからは火を通したダチョウ料理を楽しませていただく。まずは贅沢にもヒレ肉をローストしたもの。

これは独特の甘みと旨みがあり、モチモチとした食感なのである。鮮度のいい馬肉に近い味だろうか。

肉を温めたことで、新たにまた味と香りが広がった感じがする。

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希少部位であるヒレ肉のロースト。

続いては、スジ付きブロックという部位を、お店自慢のラタトゥユで煮込んだもの。今日持ってきたものをこの場で料理してもらったので、煮込み時間がちょっと足りないが、それでも十分美味しい。

ダチョウの硬い部分を煮ると、また新しい魅力が生まれるようだ。

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すね肉の煮込み。クセのない牛スネ肉っぽいかな。

そしてお次は贅沢にもダチョウのレバーフライ。今日のレバーだと、無理に生で食べるよりも、こっちのほうが断然食べやすくておいしいかな。コッペパンに挟んで食べたい。

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こういうのは塩よりもソース派です。

そしてコースのシメは、ネックの煮物。あのダチョウの長い首である。これも料理長に言わせると煮込み時間が全然足りないそうだが、骨の周りについた肉の味は最高だった。ずっとこれを噛んでいたい。

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骨を残して綺麗にいただきました。

こんな感じでダチョウをいろいろ食べてみたのだが、一口にダチョウの肉といっても、部位の違いや調理の仕方でその表情がコロコロと変わる食材で、牛、馬、羊、鴨、魚など、いろいろな食材に似た味をみせてくれる。料理好きならぜひ手を出したくなる食材だろう。

私も料理はそこそこ好きなので、ダチョウ一羽分の肉を全部買い取って、どこかで料理をしまくりたいなと思ったが(マンガみたいな肉のシュラスコとか、世界一大きな手羽先とか作りたい!)、1羽分の肉はだいたい30キロくらいあり、値段も15万くらいになってしまうそうなので、ちょっと現実は難しいかな。

しかし、適当な場所を借りることができ、ダチョウ好きを150人くらい集めることができれば、どうにかなるかもしれない。なんちゃって。

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大阪の「おさかなやたいまつり心斎橋店」で焼かれたという、脚一本。僕も焼きたい!

加藤さんの会社では、ワニやカンガルーの肉も扱っているのだが(食べるべき理由があるそうです)、これらはどうしてもゲテモノ的な扱いを受けてしまうことが多く、その流れにダチョウが組み込まれないようにと、名刺などにはあえてそれらについて書いていないそうだ。

加藤さんは、あくまで和牛や地鶏と同じ土俵で、ダチョウの味を勝負したいのである。ダチョウは生産効率がいいといっても、現在の国産ダチョウ肉の値段は、ちょっといい和牛と同じくらいで、まだそれほど安くはない。しかし加藤さんに言わせれば、同じ値段の和牛だったら、ダチョウの方が食べる価値があるそうだ。まあ、これはダチョウに憑りつかれた男の発言なので、どちらが好みなのかは自分で食べ比べて決めればいいことだが。

値段は需要と供給の問題。美味しいダチョウ肉を生産できる牧場の数はまだまだ少ない状態で、良質のダチョウ肉を求める店が増えてきているため、常に在庫不足となってしまい、どうしても価格が高くなっている。だからといって、まずくて安いダチョウの肉が広まることは、ちゃんとした食材として広めるためには、絶対に避けなくてはならないところ。

ダチョウが日本の食文化に根付いてくるためには、世の中にダチョウのおいしさを知ってもらうと同時に、おいしいダチョウ肉の安定供給が課題となってくるようだ。

今度はぜひこの目でダチョウの牧場を視察し、そして自分の腕でダチョウ料理を存分にしてみたいと思う。

■参考リンク株式会社
Queen's Ostrich(Facebook)


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