私的標本:捕まえて食べる

玉置標本によるブログ『私的標本』です。 捕まえて食べたり、お出かけをしたり、やらなくても困らない挑戦などの記録。

漁業の現場レポート!氷見の定置網漁師に一日入門

※『地球のココロ』というクローズしたサイトで、2014年6月3日に掲載した記事の転載です。

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漁業の問題をもっと知るには、やはり現場を知らねばいけないだろうということで、富山県氷見市の定置網漁師に一日入門してみることにした。

水産資源管理のあり方を考える材料としての現場レポート

マグロやトラフグなどの水産資源の減少が危機的状況となっている中、農林水産省において「資源管理のあり方検討会」という会議がおこなわれている。

これは申し込みをすれば誰でも傍聴可能ということで、私も傍聴に参加しているのだが、やはり漁業の現場を知らないと、話を聞いてもピンとこないことが多い。

blog.hyouhon.com

f:id:tamaokiyutaka:20190311010458j:plainだんだんと注目度が高くなり、傍聴人数も増えているみたいです。

第3回の検討会では、マグロを捕っている定置網漁師、巻き網漁師、曳き縄漁師の代表の方が、それぞれの立場から意見を発表したのだが、それぞれがどんな漁法でどんな特徴があるのかを多少なりとも知った上で、話を聞いたり、資料を読んだりすれば、より資源管理のあり方を深く考えられるはずだ。

ということで、ちょうどたまたま定置網漁の体験をする機会があったので、定置網漁というのがどういう漁なのか、その様子をレポートしたいと思う。

富山県氷見市の定置網漁を体験しました

普通に陸の上で生活をしていると、漁師の船に乗ってその現場を見る機会というのはなかなかないものだが、今回たまたま定置網漁の体験をすることになった。

なんでそうなったのかという話を一応すると、ゴールデンウィークにホタルイカを捕まえに行こうと思って、富山県氷見市在住の友人のところにいったのだが、今シーズンはすでに時期が遅すぎる、そして氷見にはあまりホタルイカが上がってこないという話を、氷見で定置網の網元をしている方に伺い(私のリサーチ不足ですね)、「じゃあ、せっかくなので定置網を見せてください」となったのだ。

なにが「じゃあ」なのかよくわからないと思うが、とにかくそうなったのである。

f:id:tamaokiyutaka:20190311010518j:plain定置網の網元をしている掘埜さん

さて氷見といえば、富山湾の王者とも言われる「氷見ブリ」で有名なあの氷見だ。氷見ブリは冬に氷見の定置網で獲れたもので、築地市場などでも、とても評価が高い魚である。要するに高く売れる魚なのだ。

もちろんこの時期に氷見ブリは獲れないが、氷見の定置網漁を見学させてもらうことで、氷見ブリが高く売れる理由の一端を知ることができるかもしれない。「氷見で獲れたブリだから」という理由にプラスして、「氷見の漁師が定置網で獲ったブリだから」という理由があるはずだ。

漁師が獲った魚を少しでも価値のある魚として出荷する方法は、資源のあり方を考えることに通じる話なのだと思う訳だ。

f:id:tamaokiyutaka:20190311010538j:plain定置網の模型。海に設置されたとても大きな罠だと思ってください。

f:id:tamaokiyutaka:20190311010554j:plain魚が網に沿って泳いでいくと、この場所に入り込む。ここの網を引き揚げて、魚を捕まえるのだ。

漁師の朝は早い

漁師の基地である番屋へとやってきたのは、なんと早朝の3時半。午前6時頃に氷見魚市場でのセリがはじまるので、それに合わせてこの時間なのである。遅くまで友人と氷見の旨い魚をツマミにして飲んでいたのに、よくちゃんと起きれたもんだなと、自分を褒めてあげたくなる時間だ。

この番屋で身支度をしてから船へと向かうのだが、ここでベテラン乗組員っぽい方から、「この前乗ったやつは、写真ばっかり撮っていて、なんにも手伝わなかったんだよ」というようなお言葉をいただく。

素人が通常営業している漁師の船に乗ったら、普通は見ているだけしかできないと思うのだが、どうやらお気楽な見学気分で乗船させていただくのではなく、乗組員見習いになったくらいの心づもりでいた方がいいようだ。汗。

f:id:tamaokiyutaka:20190311010619j:plainドキドキする初顔合わせ。ごめん…ください。

f:id:tamaokiyutaka:20190311010640j:plain早朝ということもあり、みなさん寡黙です。ハラハラ。

氷を積み込んでから、定置網へと出発

まだ陸も海も真っ暗な中、番屋の前に停泊している船に乗り移って出船すると、まずは市場で氷をたっぷりと船に積み込む。

氷見では定置網で獲れた魚を、生きたまますぐに氷水へと入れて絞めることで、その鮮度を保つのだそうだ。

f:id:tamaokiyutaka:20190311010658j:plain真っ暗な時間に出発。

f:id:tamaokiyutaka:20190311010726j:plain沖に行くのかと思ったら、魚を獲る前に市場へと到着。

f:id:tamaokiyutaka:20190311010743j:plainまずは氷をたっぷりと積み込む。

港から船をしばらく走らせると、目的の定置網が見えてきた。この定置網が設置されているのは、水深20数メートル程の港からすぐ近くの場所である。

見えてきたといっても、上からではなく横から定置網を見ることになるので、どこがどうなっているのかは、素人にはさっぱりわからないのだが。

f:id:tamaokiyutaka:20190311010758j:plainおそらく定置網の先っぽに到着。

定置網というのは、魚群探知機で魚を探して獲る漁とは違い、魚が通りそうな場所に網を設置しておき、一日一回(市場がやっている日)網を揚げに行くという漁である。定まった場所に置いておく網だから、定置網。

そのため季節によってメインで獲れる魚は違うし、日によってもなにがどれくらい獲れるのかは違ってくる。もちろん大きい魚も入れば、小さい魚も網へと入る。

定置網は泳いでくる魚が網の中に入りやすいようにできているが、同時に出るのも簡単な構造なので、実際に獲れるのは定置網に入り込んだ魚の3割程度といわれている。

通年を通してみると、富山湾の生態系ピラミットから、まんべんなく少しずつ魚をいただくというイメージだろうか。この場所を通る魚を、定点観測するような漁なのである。

一度に何度も網を上げることはできないから(魚が入るまで時間が掛かるので)、魚を獲りすぎるということができない。

お待ちかねの網揚げタイム

準備が整ったところで、みんなで定置網の一番奥部分の網をゆっくりと引っ張っていく。当然、魚はまだ網の中で元気に泳いでる。

私も漁師さん達の間に入って、見よう見まねで網の引き揚げを手伝ってみる。コンビニでゴム手袋を買っておいてよかった。

だんだんと網が狭くなっていくと、次々に魚が見えてきてとても楽しい。ついつい魚の名前を口に出してしまう。水族館にきた子供か。

網はゆっくりと揚げられるので、ギリギリまで魚同士がこすれあって傷がつくこともないようだ。

f:id:tamaokiyutaka:20190311010816j:plainエイホー、エイホー。

なにが獲れるかわからないこのドキドキ感が、素人漁師の私も興奮させてくれる。いつか石油でも掘りあてて大金持ちになったならば、自分用の定置網が欲しいくらいである。

f:id:tamaokiyutaka:20190311010831j:plainこれはサバの群れかな?

そして船からタモ網が届くところまで網を上げたら、そっと魚をすくって、すぐに氷水の中へと突っ込んで締める。

この漁では、魚が元気な状態で船に上げることができ、そしてすぐに氷水で締められることが、大きなポイントなのだろう。

f:id:tamaokiyutaka:20190311010849j:plain小さな船に乗って指示を飛ばす堀埜さん。

f:id:tamaokiyutaka:20190311010903j:plainクレーンみたいな網で魚をすくう。サバがたくさん獲れたようだ。

f:id:tamaokiyutaka:20190311010916j:plain氷の入った入れものに魚を入れ、さらにその上から氷と海水をたっぷりと注ぎ込む。

引き続いて、船を少し移動させて、定置網の別の場所を引き上げる。

詳しくは理解していないのだが(眠かったし)、定置網の構造はなかなか複雑なようで、魚によって入り込む網の場所が違うようだ。

f:id:tamaokiyutaka:20190311010931j:plainようやく少し明るくなってきた。

f:id:tamaokiyutaka:20190311010943j:plain網の引き上げはやっぱり楽しい。

f:id:tamaokiyutaka:20190311010957j:plainここで獲れたのは、氷見ではフクラギと呼ばれるブリの子供。関東だとイナダですね。

f:id:tamaokiyutaka:20190311011010j:plainこぼれ落ちた魚を拾うのが私の仕事。楽しい。

f:id:tamaokiyutaka:20190311011025j:plain漁師さんから缶コーヒーをもらった。ちょっとは認められたみたいでうれしいぞ。

すぐに市場へ戻ってセリに出す

網を揚げる作業は5時過ぎには終了し、船はセリが行われる市場へと移動する。

そして魚を船から下ろしながら、素早く魚種やサイズごとに分けていき、すぐにセリへと掛けられるのだ。

海で魚を獲ってから、わずか1時間後には買い手が決まって、次々にトラックで運ばれていくという無駄のないこのシステムも、定置網で獲れた魚が評価される理由なのだろう。

f:id:tamaokiyutaka:20190311011038j:plain漁場である定置網から、あっという間に市場へと到着。この近さが鮮度のカギ。

f:id:tamaokiyutaka:20190311011051j:plain獲れた魚を振り分けていく。個人的にはこの作業がとても楽しかった。

f:id:tamaokiyutaka:20190311011103j:plainこの日はサバとフクラギが大漁でした。

f:id:tamaokiyutaka:20190311011116j:plainマダイ、イシダイ、メバル、マス、ウマヅラなども獲れた。

f:id:tamaokiyutaka:20190311011132j:plainホタルイカが1匹だけ混ざっていた。そうだ、私はホタルイカを捕まえたかったのだ。

f:id:tamaokiyutaka:20190311011150j:plain氷見には定置網がたくさんあるので、セリ人さんはそれぞれの水揚げをチェックした上で、魚を買い付けていく。

f:id:tamaokiyutaka:20190311011203j:plainこんな感じで、セリが始まる6時にはお仕事終了。

f:id:tamaokiyutaka:20190311011218j:plainお疲れ様でした、自分。

この日獲れた魚は、サバとフクラギがたくさんと、マダイやクロダイ、ヒラメ、ウマヅラハギなどが少々。定置網は獲れる魚を選べないので、いろいろな 魚が混ざる「混獲」となる。

ちなみにフクラギはブリの子供だけれど、寒ブリに比べると、びっくりするくらい安い。氷見だとスーパーで1匹300円とかで売っていたりする。

まだ仕事がありました

船が番屋に戻ってきて、本日のお仕事は終了かと思ったら、また船に乗って定置網へとやってきた。今度は魚の水揚げではなく、ロープについた貝や海藻を落としたり、時期によって獲れる魚が違うために網の微調整をおこなう、メンテナス作業の時間だ。

当たり前の話だけれど、魚を獲るだけが漁師の仕事ではない。

f:id:tamaokiyutaka:20190311011232j:plainロープにびっしりとついた貝やら海藻やらを掃除する。

f:id:tamaokiyutaka:20190311011244j:plainこれからの季節に多く獲れるクロダイが入りやすいように、網の形を少し変えるそうです。

そしてすべての仕事が終わったら、本日獲れた魚の一部を、分け前として乗組員全員に分配。これを「かぶす」というそうで、本日のかぶすはフクラギだ。

そして皆様のお計らいで、私もかぶすをいただくことができた。漁師としての初めての報酬をもらった気分である。ひゃっほー。

f:id:tamaokiyutaka:20190311011305j:plainまさに一仕事終えた漁師っぽい光景ですね。

f:id:tamaokiyutaka:20190311011318j:plain旅行中にフクラギ7匹もらってしまった。鮮度が命だから昼までに食べろとの指示をいただく。

f:id:tamaokiyutaka:20190311011329j:plain友人から場所を借りて、刺身を振る舞わせていただきました。うまい。

ということで、これが私が体験した定置網漁のお話である。天気が良い日だったので、船の上はとても気持ちがよかったけれど、これが雨や雪の日だったら、相当辛いだろうなとは思う。でもまた乗ってみたい。

実際に漁の現場にでることで、感じることはやっぱりある。魚価の安いフクラギを獲らずに、何倍も高いブリになるまで待てないものかとも思うが、一度網に入った魚から、特定の魚種だけ元気な状態で出すというのは、やっぱり無理な話だろう。これはマグロにおけるメジマグロ(マグロの子供)でも同じ話かな。

フクラギやメジマグロが定置網で獲れてしまうのは、混獲という性質上仕方がないものであり、それであれば獲れてしまった魚をすべておいしく食べるべきだと思う。

水産庁幹部による「メジマグロを食べないでください」というお願いが一時期話題になったが、消費者側からの圧力でメジマグロばかりを狙って獲る漁を減らすことでマグロの資源を守ろうという狙いはわかるのだが、すべてのメジマグロが狙って獲られたものでもなはなく、混獲によって獲られて丁寧に処置されたものもある。スーパーなどで魚を買う際に、これがどのように獲られた魚なのか、情報として消費者にはなかなかわからないのが難しいところか。

定置網以外の漁については、私の知識が少ないのでなんとも言えないが、とりあえず私が体験した定置網漁のレポートである。ちなみにフクラギは叩いてナメロウにするとおいしいと思う。

 


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