※『地球のココロ』というクローズしたサイトで、2009年7月3日に掲載した記事の転載です。
納豆は大豆を納豆菌によって発酵させたもの。納豆菌は藁などに自然と付いているらしいが、納豆そのものにだって当然納豆菌は付いている。それならば、納豆が入っていたパックに大豆を入れたら、発酵して納豆になるのではないだろうか。
ヨーグルトにできて納豆にできない訳はない
以前、カスピ海ヨーグルトというのを自宅で作っていたことがある。カスピ海ヨーグルトというのは粘度の高いヨーグルトなのだが、食べた分だけ牛乳を注いで常温で数時間置いておくと、元通りのヨーグルトになってしまうというすぐれもの。ヨーグルトの菌による発酵で、牛乳がヨーグルトになってしまうのだ。
今回はこれと似たようなことを、納豆でやってみようという試みである。ヨーグルトでできたんだから、納豆でだってできるのではないだろうか。
とりあえずスーパーで納豆をいろいろ買ってきてみました。
茹でた大豆を納豆のパックで発酵させる
納豆を作るには、まず大豆を買ってきて、一晩かけて水で戻して、鍋で柔らかくなるまで煮る必要がある。発酵前からけっこう手間がかかるのだ。あまり深いことを考えずに二袋の大豆でやってみたのだが、大豆が水を吸って鍋いっぱいになってしまって焦った。一粒一粒がでかいし。
ちょっとやりすぎた。余ったら味噌でも作ればいいのかな。
大豆を茹でている間に、買ってきた5種類の納豆を1パックづつ数粒だけ残していただく。都合、5パックの納豆を一気に食べた訳だが、納豆は大好きなので全然問題はない。
納豆はほぼ毎日食べています。
大豆が柔らかく煮えたところで、アツアツのまま納豆が入っていたパックに入れて、軽く混ぜてフタをする。納豆パックのリユースである。正直、不安でいっぱいだ。
ずいぶん大粒の納豆になりそうだ。
茹でた大豆がかなり大粒で、中まで納豆菌がたどりつくか不安だったので、包丁で細かく刻んだ大豆で「ひきわり納豆」もつくってみることにした。
元の大豆がでかいので、ひきわりにしてようやく普通の納豆サイズ。
あとはこれを40度前後で発酵させれば納豆になるはずなのだが、適温を保つ方法が難しい。魔法瓶を使おうか、こたつをだそうか、いやクーラーボックスにお湯を入れたペットボトルでどうだろう、などとあれこれ悩んだ結果、冷蔵庫の上が温かかったので、綺麗に拭いてここを発酵蔵にすることとした。
上からアルミホイルをかぶせて保温してみる。
24時間後の様子
発酵開始から24時間経過。ドキドキしながら納豆パックのフタを開けてみる。
おお、全体が白くなっている。
開けたらカビだらけになっていたらどうしようかと思ったのだが、全体的にうっすらと白くなっており、これが納豆菌の繁殖によるものであれば大成功と言えるのではいだろうか。とかいって、ただの白カビだったらどうしよう。
鼻を近づけて匂いを嗅いでみると、よく言えば個性豊かな芳香、悪く言えばアンモニア臭。「納豆を超えてしまった何か」の気配をうっすら感じさせる野性的な匂いなのだが、本来納豆ってこういう匂いのような気もする。
まだちょっと発酵が甘い気もするが、これ以上発酵させるのもなんだか不安なので、軽く混ぜてすぐに冷蔵庫へ移動。そして一日寝かせたのがこちらだ。
ジャーン。これはもう納豆でしょう。
大豆の色こそまだ薄いけれど、全体に粘り気を帯びたその姿はまさしく納豆。このまま何日か冷蔵庫に入れておけば、市販の納豆と似たような感じになるのではないだろうか。
買ってきたどの納豆でも同じようにできました。これは黒大豆納豆。
ひきわり納豆も問題なし。たぶん。
心配した匂いも冷蔵庫で一日寝かせたためか、かなりアンモニア臭が収まっており、どれもいわゆる納豆の匂いである。箸でかき混ぜてみればいい感じに粘ってくれる。いい仕事をするじゃないか、パックに残っていた納豆菌。
ほら、この素敵な粘り。
だが試食するのはちょっと怖い
納豆のパックで作った納豆、さあ問題は味である。
いや違う。味の前に、これを食べてお腹を壊さないかというのが一番の問題である。
見た目はどう見ても納豆。その粘りと香りも納豆以外の何物でもないのだが、よくよく考えれば衛生面にそれほど気を使わずに台所に放置した茹で大豆である。
醤油とからしを入れて混ぜてみました。うまそうなんですがね。
「発酵と腐敗は紙一重」。
そんな格言があるのかどうかは知らないが、こいつの中で納豆菌以外の菌まで元気に増殖していないという保証はどこにもない。一瞬顕微鏡を買ってきて菌の種類を調べようかとも思ったのだが、顕微鏡を買うお金で納豆がいくら買えるんだと思って中止した。
手作り納豆を食べてみたいが、お腹は壊したくない。ケーキを食べたいけれど太りたくないというのともちょっと違う葛藤をすること数十分。そのまま食べるのはやっぱり危険ということで、折衷案として納豆汁にして食べてみることにした。火を通せばいいっていうものでもないだろうけれど、火を通さないよりはきっと安全。
味噌汁にネギと納豆を入れてよく煮てみました。
恐る恐る一口すすると、風味豊かなおいしい納豆汁に仕上がっていた。どうやらあれはちゃんと納豆だったらしい。
この実験を通じて、納豆のパックを利用して納豆を作ることは可能だということがわかった。だがしかし、作れるけれど、それが食べて大丈夫かといわれると、そこはやっぱり疑問だらけ。疑問というか、今回がたまたま成功だったような気もする。
納豆作りはなかなかおもしろい実験だけれど、買った方が安いし楽だし安全なので、もうやらなくていいかなというのが正直なところだ。