※『地球のココロ』というクローズしたサイトで、2009年10月21日に掲載した記事の転載です。
「キノコ狩り」というと、キノコを採って食べるためのものというイメージがあるが、世の中には食べるためばかりではなく、「菌類の調査研究」や「菌類を通じて自然に親しむ」ためにキノコを探す人もいる。今回はそんな人達が集まった「千葉菌類談話会」の観察会に参加させていいただいた。
千葉菌類談話会の観察会とは
千葉菌類談話会とは、『キノコをはじめとする菌類を通して自然に親しみ、あわせて千葉県内に産する菌類の調査研究をおこなう。また、観察会や講座など各種催し物を適宜開催し、会員相互の親睦と知識の交流をはかる』という目的のために設立された会で、菌類に興味を持つ人なら、千葉県民でなくても誰でも参加できる。
談話会では、年に数回「観察会」というキノコ狩りイベントをおこなっている。私は知人に誘われて昨年から参加しているのだが、食べるためだけのキノコ狩りとはまた違った発見があっておもしろいのだ。もちろん「味」も菌類の特徴の一つなので、採ったキノコを食べることが禁止されているという訳ではない。私も含めて、普段は食べられるキノコを主に狙っている会員も多いようだ。
副会長からの挨拶で観察会がスタート。
観察会では注意事項などを確認した後、指定の時間まで各々キノコ狩りを楽しみ、最後に収集したキノコを使って勉強会をおこなう。私の場合、一人でキノコ狩りをしても、採ったキノコの名前がほとんどわからなく楽しみ半減なので、今回は「きのこ雑記」という人気サイトを運営している浅井郁夫さんに同行させていただくことにした。
観察会は特別な許可をとった公園などでおこなわれます。
浅井郁夫さん。キノコ狩りはやっぱり詳しい人と一緒だと心強いです。
キノコを見つけられる人と見つけられない人
キノコ狩りを楽しむには雨が降って数日後くらいがいいのだが、ここ最近は雨の降らない日がずっと続いて地面が乾燥していており、残念ながらキノコ狩りには厳しいコンディション。
それでも、私の目にはキノコなんて一本も生えているように見えない場所で、浅井さんは次々とキノコを発見していく。
短い草しか生えていないような乾いた場所でサクッと発見。
私には見えないものが、浅井さんには見えている。こう書くとオカルト現象のような話だが、浅井さんは図鑑などに掲載するためのキノコを集めているほどの専門家。私なんかと比べてキノコの発見力が違って当然である。ちなみに浅井さんは現在50種類くらいの指名手配キノコを探しているそうだ。人が見つけられないようなキノコを探すのが仕事なんて、なんともかっこいい人生である。
ツクツクホウシタケを発見
食べるためのキノコだけではなく、広く菌類を探すことで、今まで目に入らなかったようなものが見えてくる。たとえば次の写真、中央の白いものがなんだかわかるだろうか。
これも実はキノコなのです。
私も教えられてその存在に気がついたのだが、これは「ツクツクホウシタケ」という、蝉の幼虫に寄生するキノコなのだ。
いわゆる冬虫夏草の仲間なのだが、話には聞いたことがあるけれど実物を見たことがないような冬虫夏草でも、それは今まで気がつかなかっただけで、実は身近な所に存在しているということを知って驚く。こういう驚きは、食べるためだけにキノコを探していたのでは味わえない。この知識をハイキング合コンなどで披露すればウケること間違いなしだ。とかいって気持ち悪がられたらごめんなさい。
白い膜の中に蝉の幼虫がいるそうです。
キノコを探して見えてくるもの
キノコというのはさっきのツクツクボウシタケみたいな例外を除いて、「木の子」というくらいだから、木やその周辺に生えてくる。そしてキノコというやつはマツタケだったらアカマツといったように好みの木が異なっているため、キノコを探すにはまず木の種類を覚える必要がある。さらには季節や標高、地形などが関わってくるので、キノコ狩りを通じて自然に関する様々な知識を勉強することができる。
たとえばこのシロヌメリイグチ。これはカラマツの林に生えるキノコなのだが、もともとこの場所にはカラマツの木がないため存在しなかったキノコである。
なかなかぽってりとしてかわいい姿だ。
これは公園に植樹されたカラマツについてきた菌から発生したもので、このように人間の手によってキノコの分布が変わることがわかる。
キノコは傘の裏に特徴があるので、手鏡でチェックするといいそうです。ただ手鏡は職務質問されるとややこしいことになるのが欠点だとか。
浅井さんとのキノコ狩り、今のところ夕飯のおかずになりそうなキノコはゼロだけど、夕飯の話題には事欠かなそうだ。
土が乾いているので水辺に移動してみる
今日のように土が乾いている場合、川や池など水のあるところの近くのほうがキノコが発生しているだろうということで、公園内の池に移動してきた。
キノコも気になるが、池の中の魚も気になる。
この移動が大成功で、次々と見たことのないキノコをポコポコと発見。
一気にテンションの上がる参加者たち。
参加者は浅井さんのような専門家から、私と同レベルの素人まで様々だけれど、みんなで楽しめるのがキノコ狩りのいいところ。
名前のわからないキノコを見つけたら詳しい人に聞いてみたり、珍しいキノコを見つけた人に見せてもらったり、初対面の人とも自然と会話が生まれてくる。さすがは「談話会」というだけはある。
この看板は脅しではなくて、本当にまむしがたくさんいるそうです。
出会ったキノコを写真に残そう
キノコは採取という意味での「採る」だけではなく、撮影という意味での「撮る」のがまたおもしろい。マクロ撮影をすると、素人が撮ってもそれなりにいい写真になってくれるのだ。もしあなたがいいカメラを持っているなら、とりあえずキノコを撮影してみることを強くお勧めしたい。
その姿はどれも個性的で、同じ種類のキノコでも成長段階で全く形をしているため、同じキノコは二つとない。すべてのキノコを写真に収めたくなってしまう。
光を反射させるものを使うと、傘の裏まできれいに撮れるそうです。
以下、私が細かい設定はカメラ任せで撮影したキノコ達。
こういう小さいキノコがよくみるとそこらにありました。
クロノボリリュウタケ。彫刻みたいだ。
キノコらしいキノコ。名前は聞き忘れました。
キショウゲンジというキノコだそうです。
これはキショウゲンジの幼菌。
カワムラフウセンタケ。すごい色ですね。
アカハテングタケ。ここで雨宿りしたい。
セイヨウキツタ。でかいキノコかとおもったら、看板だったという罠。
そしてキノコの勉強会
会の最後には、各々が集めたキノコを分類ごとにテーブルに並べて、それぞれの名前や特徴、見分け方、毒の有無などを勉強していく。
キノコは専門家でも肉眼で見ただけではその名前がわからないものも多く、胞子を顕微鏡で確認したり、遺伝子検査をして、ようやく名前がわかるものも多いそうだ。また、まだ名前もついていないようなキノコも多く、新種を見つけたかったらキノコを探せといわれているらしい。まあそれが新種かどうかを証明するのが骨だろうけど。
みんなが採ってきたキノコの種類の多さにびっくりしますよ。
ピンポン玉くらいでずっしりと重いキノコもあります。大きくなるとスッポンの首みたいに育つそうです。
カブトムシの匂いがするというキノコ。本当にカブトムシ(メス)の匂いがした!
キノコ狩りでは、食べるという目的を捨てて、初めて見えてくるものがたくさんあった。でも観察会終了後、食べられるキノコをいくつかもらって夕飯のおかずにさせていただいた。
まだまだ私には「食べる」という目的を捨てきれないようである。