私的標本:捕まえて食べる

玉置標本によるブログ『私的標本』です。 捕まえて食べたり、お出かけをしたり、やらなくても困らない挑戦などの記録。

ボラを食べよう!日本鯔学会にいってきた

※『地球のココロ』というクローズしたサイトで、2010年7月5日に掲載した記事の転載です。

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昔に比べて食べられることの少なくなった東京湾のボラを食べることで、国内自給率をアップさせようという趣旨のイベント、日本鯔(ぼら)学会に参加してきた。

日本鯔学会とは

日本鯔学会が開かれるのは、千葉県の船橋港近くにある公民館の調理実習室。日本鯔学会という名前から、学者さんが正装で集まって、環境問題を熱く語るようなイメージを持っていたのだが、実際にいってみると誰もスーツや白衣は着ておらず、普通のおじさんおばさんおにいさんおねえさん達が普段着でニコニコしていた。いい意味でなんだかゆるい空気である。

この学会の学長であり船橋港の巻き網船「大平丸」の網元である大野一敏さんによれば、「本当はボラをつまみにした飲み会なんだけれど、飲み会にいくよってんじゃ都合が悪い人もいるから、学会っていう名前にしておけば、みんなが集まりやすいだろうとつけた名前だよ。」ということらしい。

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学長の大野一敏さん。NPO法人ベイプラン・アソシエイツ代表。

もちろんそれは半分冗談(だと思う)。ここ船橋港はスズキの水揚げ日本一の漁港なのだが、スズキを獲るための巻き網にはボラも一緒にたくさん入るが、もったいないことに売り先がないためほとんど出荷をしていない。ドバイやマニラ、アムステルダムなどでも食べられている世界的な魚なので、「ボラなんか食べられるの?」なんて偏見を持っているのは、実は少数派なのかもしれない。東京湾のボラは、日本に残された数少ない「未利用の資源」なのである。

元々ボラという魚は大昔から食べられている食用魚で、江戸時代にはヒラメやマゴチと同じランクとされていた。しかし、ボラは海底にたまった藻などを食べているため、昭和40年代前半の高度成長期、工場や家庭からの排水などで汚れた東京湾で育ったボラは泥臭くなってしまった。ボラは海の汚染度を味にはっきりと反映してしまうのだ。

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事務長の伊藤雄一さん。東京湾うお☆ごころ喰ラブ代表。

これを期に「東京湾のボラは臭い」というマイナスイメージが浸透してしまい、東京湾の水質もだいぶきれいになり、ボラも代替わりを繰り返した今でも、ほとんど食べられていない状況が続いている。国内自給率の低下が進んでいる現在、もう元の味に戻った江戸前のおいしいボラを、昔のように食べましょうという啓蒙活動をしているのが、日本鯔学会なのである。

ちなみにボラの旬は冬で、この頃のボラは「寒ボラ」と呼ばれて、食通で有名な魯山人も評価していたそうだ。旬と真裏の今の時期、どんな味がするのだろう。

和食のプロがボラを捌く

日本鯔学会の主な活動内容は、もちろんボラを食べること。いつもの会では船橋漁港で事務長の伊藤さんが捌いたボラを食べているそうだが、今回は特別にすぐ近くにあ三井ガーデンホテル船橋ららぽーとの和食料理長である齊藤さんが、プロの技でボラを料理してくれるのだ。いいときにきたぜ。

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二日前に船橋港で水揚げされたボラとコノシロ。二日ほど氷漬けで熟成させると身に旨味が回ってくるそうだ。

三井ガーデンホテル船橋ららぽーとのレストラン、チャートハウスでは、この会の趣旨に賛同し、ランチバイキングでボラなどの船橋港で水揚げされた新鮮な魚を使ったお寿司を週に一度出して好評を得ているそうだ。ホテルのレストランでボラのお寿司が食べられるのは、関東ではここだけかもしれない。

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ボラのうろこは大きいので、コインを使ってとるといいそうです。

生きているうちにしっかりと血抜きをしたボラを使っての捌き方教室が始まった。鱗と鰓をとったら、腹を裂いて丁寧に内臓を取り出す。このとき、大豆くらいの緑色をしたニガ玉をつぶすと、その苦味が広がって台無しになる。

海釣りの外道でよく釣れる魚なので、見慣れてはいるけれど食用魚という印象が薄かったボラだが、プロの手によって捌かれていくと、だんだんとうまそうな食材に見えてくるのがおもしろい。

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腹にたまった牛脂のような脂がすごい。旬じゃなくても脂ノリノリだ。

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珍味として知られるボラのヘソ。実際はヘソではなくて胃袋の一部。

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丁寧な説明をしてもらえるので、魚のさばき方教室としても勉強になる。

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この見事な白い身は、しっかりと血抜きをしてある証拠。

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こちらは前日に仕込んでいただいていたボラの昆布占め。

だんだんとうまそうになっていくボラを見ていて、もう食べる前からボラに対するイメージが変わってきた。ボラはサイズも大きく、一匹からたくさんの身がとれる。切り身にしてしまえば見た目もいいし、今のところボラを食べない理由が見つからない。

ボラボーで乾杯!

プロの料理人によって、価値がないとされている魚が見事高級魚のように調理された。刺身にされたボラは、脂の乗った飴色の白身と、鮮やかな血合いの赤さのコントラストが美しい。見た目100点。さて問題の味は如何に。

料理ができたところで、参加者全員で日本鯔学会オリジナルの乾杯、「ボラボー!」。

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「ボラボー!」というのが、ちょっとだけ恥ずかしかった。

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どう見てもうまそうなボラの刺身。いわれなかったらボラとは絶対に思わないヴィジュアルだ。

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三番瀬の海苔を巻いたおにぎりもうれしい。

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ボラのアラに醤油を絡めて炙ったもの。

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なんと寿司まで握ってもらえた。廻っていない寿司なんて久しぶりだ。

さて肝心のボラの味だが、正直なところ、最初にお刺身を食べたときは違和感を感じた。今までに食べたことのない匂いがあるのだ。季節外れのボラだからか、海底の藻を食べる魚だけあって、その匂いがうっすらと残っているようである。たまにスズキでもこういう匂いがするのもあるし、個体差の範囲だろうか。しかし、味自体は脂が乗った上々の白身で、なるほど昔から愛されてきた味なんだろうなと納得のできるものだ。

何度もこの会に参加している人の話だと、こういう匂いがあるのは初めてとのことで、ちょっと脂が乗りすぎていたためではとのことだった。ただ、刺身ではちょっと気になった匂いも、サクの状態で氷水で洗ってから刺身にしたものはぐっと食べやすかった。昆布絞めや寿司に関しては、まったく匂いが気にならなく、素直にうまいと思った。

実際にボラを食べてみて、ボラはおいしく食べられる魚だと認識を改めた。もちろんどんな魚でもそうだが、その魚の特徴、そして個体差に合わせて料理法を考える必要はあるが、逆にボラを使った料理をいろいろ試してみたくなってきた。

今度、ボラが釣れたら血抜きをして持って帰って、さまざまな料理を試してみようと思う。

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ごちそうさまでした。

【参考サイト】
日本鯔学会

 

 

 

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