※『地球のココロ』というクローズしたサイトで、2011年2月4日に掲載した記事の転載です。
友人に誘われて、真冬の真夜中に干潟を散策してきた。そんなの寒いだけじゃないかと思うかもしれないが、これがなかなかおもしろいのである。まあ確かに寒いんだけどね。
誰もいない夜の干潟にやってきた
私も潮干狩りなどの干潟遊びは好きな方なのだが、私以上にどっぷりと浸かっている友人が何人かいる。この人達、物理的にも海に浸かりまくりなのだ。
普通の人が干潟にいくのは、潮干狩りシーズンの春から初夏にかけて。もちろん時間は昼間である。いや干潟になんていかないよという人の方が多いのかな。
だがこの友人達にはオフシーズンというものがない。秋冬は昼間にあまり潮が引かないのだが、ならばと誰もいない夜中の干潟へとライトを持って繰り出していくのだ。
夜の海は当然真っ暗。
今回はそんな友人についていった話。
場所は漁業権が設定されていない東京湾某所。
東京湾というと水が汚いイメージがあるかもしれないが、潮通しのいいこの干潟は、びっくりするほど澄んでいた。あまりにきれいなので飲んでも大丈夫かなと思ったが、海水だから塩辛いよね。
東京湾とは思えない、まったく濁りのないきれいな水。
「いいもの」を探す
ここの場所は陸沿いに大きめの岩が転がっているエリアがあり、そこから沖に10メートルもいくと砂地になっていて、それが何百メートルも続いている。
まずは全員で岩場を散策して、「いいもの」を探す。
彼らに寒いとか眠いとかいう感情はないらしい。
ここでいう「いいもの」とは、食べられる種類のカニや貝がメインなのだが、それだけが目的ではなく、変なクラゲや珍しい漂流物なども「いいもの」に入る。どこかの釣り人がロストしたルアーなんていうのも「いいもの」だ。
波の音すらしない干潟で、いい大人が「こっちきてー!」「いいのあったよー!」という声をあげている。「いいもの」をみつけたら、誰かに見てもらいたいものなのだ。
この場所には何度も来ている友人達だが、海は来るたびに違う表情をしており、そこにある「いいもの」は毎回違うという。真冬の海というちょっとした罰ゲームみたいな場所なのだが、確かにクセになりそうな興奮がここにはあった。
地味なカラーリングのナマコを発見。
カニもいたけれど、求めている食用のカニとちょっと違う。
この日はさすがに水温が低すぎたらしく、狙っていた種類のカニや貝は不発に終わったが、それでも何種類もの生き物を見ることができた。
真っ暗な闇の中で、ライトを頼りに「いいもの」を探しているとき、私の頭の中では「ルパン三世のテーマ'78」が流れている。
砂地でバカガイを探そう
岩場を一回りしたところで、次は沖の砂地へと移動。
ここの干潟は遠浅なので溺れる心配はまずないのだが、アカエイという毒針を持った魚がいて、それを踏むと大惨事となる。決して一人では夜の海に近づかないのが鉄則なのだ。
砂地には陸上の落ち葉のように無数の貝が落ちているのだが、ほとんどが貝殻のみで生きているものはとても少ない。
競馬場に落ちている馬券くらいハズレばかり。
ここで狙うのはバカガイという種類の貝。この中から中身の入った生きた貝を探すのは、落ち葉に埋もれたキノコを探すようなものなのだが、干潟黒帯の友人に言わせると「生きている貝は3Dに見える」らしい。
最初はなんのことやらと思ったが、生きた貝は貝殻が合わさっていて厚みがあるので、なるほど確かに浮き出ているように落ちている。これは確かに3Dだ。
これがバカガイ。3Dに見えませんか?
しばらくは歩いてバカガイを拾っていたのだが、そのうち一人が冷たい海に手を突っ込んで、砂の中にいる貝をほじくり出した。どうやら当たり前だが砂の上よりも砂の中の方が多いらしい。
こうなるともう全員が後先を考えず、砂に手を突っ込んでの寒中潮干狩り大会がスタート。私は軟弱なのでゴム手袋をしていたのだが、ほかのみんなは全員素手だ。
収穫のくらべっこ。ここにいる人間、全員精神年齢が小学五年生くらいだと思う。
なんとなく電気を消して空を見上げたら、星がきれいだった。
しばらくかがみこんで星を見ながら手の感触だけで貝を探していたのだが、首が痛くなったのでやめた。
ツメタガイをやっつけろ
夢中になってバカガイを探していたら、砂に埋もれたUFOを発見。中の宇宙人は無事だろうか。
アダムスキー型というやつかな?
というのはお約束の干潟ギャグ。これはツメタガイという肉食の巻貝が、足(?)を投網のように広げてアサリやバカガイなどの二枚貝を捕食しているシーン。
持ち上げるとシュルシュルと縮んでいく。宇宙船というか、これ自体が宇宙人っぽい。
このツメタガイ、ものすごい量の貝を食べてしまう困った貝なので、私は干潟からバカガイなどの貝を少しもらっていく代わりに、こいつを見つけたらなるべく持ち帰って食べるようにしている。これぞ肉食の貝といったワイルドな味がする珍味だ。
なかなかこれを食べようとする人は少ないかもしれないが、ウィキペディアにも食べ方が載っているので(こちら)、見かけたら一度といわずに毎回食べることをオススメする。ツメタガイのせいでアサリが全滅している潮干狩り場もあるのだ。
干潟には海苔も生えている
便利な道具を使えばバカガイはいくらでも獲れるのだが、素手で明日のおかず程度のバカガイを確保したところで潮干狩り終了。漁業権がないということと、なにをどれだけ獲ってもいいということは違うと思う。
帰り道、岩に天然の海苔が生えていたので、これも少しいただいていくことにした。これを味噌汁に入れるのが好きなのだ。
海苔を発見。こうやってみると、まさに海の苔ですね。
貝殻で海苔をかき集める。無心。
海苔を網に入れておいたら、ナマコみたいになった。
久しぶりの夜遊びはこれにて終了。
陸に上がってもまだドキドキしていた。
「お互い風邪ひかないように」といいつつ解散。
また遊びましょう。
バカガイ、やっぱりうまい。