※『地球のココロ』というクローズしたサイトで、2011年6月7日に掲載した記事の転載です。
握り寿司というと、外で食べる、出前を取る、あるいは買ってきて食べるものであって、身近な存在なのに自分で作るというイメージのまるでない料理である。これをあくまで「家庭料理として」楽しんでみたらどうなるだろう。
手前寿司を握る会
自ら寿司を握って食べるというハンドメイドでDIYな集まりが開かれたのは、ソーシャルスペース「つむぐ」。ここでは魚を食べたり魚を握ったりばかりしているようだが、ちゃんと廊下を語ったり蚊取り線香を嗅いだりもしている場所である(余計わかりづらいですね)。
手前味噌ならぬ手前寿司、すべて素人だけでやってみるのもいいけれど、今回は近所の料理屋「遊月亭」のご主人タケルさんに下準備とご指導ご鞭撻の程をお願いした。
ポイントはあくまで「家庭料理として」というところ。もちろん我々素人がプロと同じことに握れるようになるわけがないので、割り切るところは割り切る。小数点以下切り捨て。素数なんかいらないというのが方針だ。
さあ、にぎにぎしくいってみようか。
すーし、すーし。
ネタはトビウオ、タコ、ヅケマグロ、イシダイ、クロソイ、マダイという豪華ラインナップを用意していただいた。
我々がやる最初の作業は、ガリ用に生姜の皮を剥くところから。そこからか。
ガリの漬け汁は酢と味醂などを各自ブレンド。つくったことのないものなので、味の足し算がわからない。
短時間で浸かるように針生姜を漬けた。これだけで酒が飲めるね。
ということで、寿司を握る前に、とりあえず生姜をつまみに乾杯だ。ダメな大人だ。
握り方をざっくりと教わる
今回はネタもシャリもタケルさんが用意してくれたが、自分達でやる場合は、ネタは自分で魚を釣ってくるところからやってもいいけれど、刺身を柵で買ってきて寿司用の大きさに切れば簡単。
シャリも市販の寿司酢を買ってきて説明書き通りに作ればいいとのこと。子供の頃にミツカンのCMで憧れた手巻き寿司をやるのと、準備としては変わらない。
さあ下拵えができたところで(自分でなにもしていないですが)、続いてはお待ちかねの握り方講習会。
まずはフルーツを食べるときのフィンガーボール(実物をみたことないですが)のように置かれた手酢(酢を水で薄めたもの)を手に付け、パンと威勢よく叩く。寿司なのにパンだ。
手酢は手に米粒がつかないようにするためで、パンと叩くことで手のひらにまんべんなく広がるそうだ。寿司屋でたまに見かける光景だが、あれってヴィジュアル系の演出ではなく意味のある行為だったのか。
このあと全員が一斉にマネをしたので、この空間が一気にフラメンコ会場のようになった。パンパンパーン。
寿司の握り方については、こだわりだすとキリがない。基本的な流れだけを教わり、あとは各自自己流で。自分で食べるものなので、自己責任で握っていく。
キュッと押したり、クルクル回したり。早すぎてなにがなんだか。左手の親指がポイントだろうか。
軍艦巻きは、ご飯粒を海苔のノリにして巻く。
お手本の寿司。左は丸く握った手毬寿司。
手前寿司、楽しいぞ
まず右手でやさしくシャリを掴んで形をなんとなく作っておき、左手にネタを乗せて、わさびを塗って、そこにシャリを乗せる。あとは押さえたり回したりしてそれっぽく整形したら完成。
だいぶ前に自己流で握ったときよりも数段完成度が高くて嬉しい。作るたびに上手になっていくのがわかるので、この道で食べていけるのではと勘違いをしそうになる。
「口の中でシャリがホロホロと崩れていく柔らかさ」とか贅沢を言い出さなければ、まったくの素人でも寿司らしきものはできあがるようだ。
コツはシャリをイメージより少なめにすること。多少シャリの形が不格好になっても、ネタで隠れてしまうので問題なし。胃袋のキャパシティを無視して、何個でも作りたくなる楽しさなのである。
パっと見た感じはオン・ザ・リッツな立食パーティー風ですね。酸っぱい匂いが充満しているけど。
最初は米粒が手にくっつきまくる。お弁当つけてどこいくの。
みんなでつくったお寿司。それっぽい、それっぽい。
タイトル:蛸を襲う紫蘇。
これは私が作った寿司。満足の出来栄え。
つまみ食いならぬ握り食い。自分で握って食べるのって、なんだか変な感じだけど、握りたてなのでヘタな出前よりもおいしいよ。
ポンポンポンと舌鼓を打つ。ポポポポーン。
ついでに巻き寿司も作ってみよう
握り寿司だけでも楽しいのだが、ついでに巻き寿司の作り方も教えていただいた。しかも普通の巻き寿司ではなく、いきなり海苔が内側に巻かれた、逆巻き寿司にチャレンジ。逆巻きだけに、「スシ」ではなく、「シースー」というべきだろうか。業界人か。
前回りができない子供がいきなりバック転を習うようなものに思えるが(ビデオの話で例えようと思ったけれど自粛)、ちゃんと作る細巻きや太巻きに比べたら、見た目ほど難しくはないらしい。
プロの板前がいう「難しくはない」っていうのが、どこまで信用できるかはあれだが。
普通の海苔巻きではなく、いきなり裏巻き。いい感じに酔っぱらいだした参加者にどよめきが走った。
巻き簾にラップを敷き、鰹節、ご飯、海苔、具の順で乗せていく。ご飯を薄く乗せるのがコツ。
ラップを巻きこまないように巻いていく。
形を整えたらラップごと切る。ラップだと食べられないので、代わりに海苔を使ったらどうだろう。ってそれは普通の海苔巻きか。
寿司の盛り合わせがワンランクアップ。イクラをこの上からこぼしたい。
胃袋と材料の都合で私は見ていただけなのだが、確かにコツさえ掴めばイメージよりも簡単にできそうだ。カリフォルニアあたりの寿司屋のように、いろいろな具を入れて作りたくなる。今度の恵方巻きは裏巻き方式にしてみようかな。
裏巻きは構造上、ラップに包まれた状態で完成するので、お弁当にもいいかもしれない。ちょっと気合を入れたら、断面をアンパンマンの似顔絵にできそうだ。いやそれはちょっと言い過ぎた。
お寿司の後には遊月亭から出前が。素晴らしい一日だ。
握り寿司に巻き寿司、どちらもなかなかチャレンジする機会がないものだけれど、完成度にさえこだわらなければ、誰でも作れるようである。
これが電気工作だったら「動かない」という明確な失敗があるけれど、料理だったら「食べられない」という失敗はまずないところがいい。
そして自分が作った寿司を食べることで、ちゃんとした寿司屋の技術レベルの高さを再認識できるというところも大きなポイントなのである。