私的標本:捕まえて食べる

玉置標本によるブログ『私的標本』です。 捕まえて食べたり、お出かけをしたり、やらなくても困らない挑戦などの記録。

グルメミートワールドで本物の生ハムを食べ比べてきた

※『地球のココロ』というクローズしたサイトで、2012年5月22日に掲載した記事の転載です。

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豚の脚丸ごと一本の生ハムと共に暮らすという、「生ハム生活」を応援するグルメミートワールドで、本物の生ハムを味わってきた。

本物の生ハムを求めて日光のグルメミートワールドへ

当サイトの担当編集である池田さんが、「絶対に取材すべき生ハムがあります!」と、激しく燃えている。一瞬なにごとかと思ったほどに。

なんでも会社の同僚が、グルメミートワールドというところで豚の脚丸ごと一本の生ハム(原木というらしい)を買ったそうで(この記事です)、その人から生ハムと共に暮らす生活の魅力をたっぷりと聞かされ、なんと池田さんも生ハムを一本買い、すでに食べ尽くしてしまったそうだ。

生ハム生活は話に聞いていた以上に素晴らしかったらしく、次の原木はどれを買ってやろうかと息巻いている池田さんと、栃木県日光市にあるグルメミートワールドまでやってきた次第である。

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栃木県日光市にあるグルメミートワールド。基本的に通販のお店なので、ここまで来なくても買えますよ。

我々を出迎えてくれたのは、グルメミートワールド社長の田村さん。アポイントをとった池田さんの情熱が伝わっていたのか、テーブルの上には見事な生ハムの原木が、デーンと3種類も並んでいた。

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今からなんのパーティーが始まるのだろうと思ってしまった。

生ハムの原木って大きいのですね。私が頭の中で比べている対象が、クリスマスに食べる鶏のモモ焼きなのが悪いのだが、実物の生ハム原木は相当な迫力である。

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これが家にあったら毎日が楽しいだろうなあ。

田村さんは肉屋の4代目で、地元日光のホテルやレストランを相手に、社名にもなっている「グルメミート(牛、豚、鶏以外の獣肉)」などの販売をおこなっていたのだが、肉のおいしさにこだわっていろいろと試していくうちに、パリで食べた本物の生ハム(パリだけど食べたのはスペインのハモン・イベリコ)に大きな衝撃を受け、魅了されてしまったのだという。

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さっそくスライスされる生ハム。生ハムってこんなに美しいものだったのか。

田村さん曰く、本物の生ハムとは究極の熟成肉なのだそうで、生ハムを愛するあまり、イタリアやスペインなどヨーロッパ各地のメーカーを見て回り、現地のおおらかな気質(表現をオブラートにくるんでみた)に振り回されながらもどうにか交渉をまとめて、己の舌で確かめた生ハムを輸入販売するようになったそうだ。

3種類の原木生ハム食べ比べという贅沢

私は生ハムがなんなのかをよくわかっていなかったのだが、田村さんからの受け売りで簡単に説明をすると、豚の塊肉を塩漬けにして長期熟成させることで、乳酸菌などの微生物の力で旨みを引き出したものだそうだ。生ハムというくらいなので、もちろん火は通していない。

豚の中でも特に味がいいとされる後ろ足で作った生ハムをスペイン語で「ハモン」といい、白ブタで作れば「ハモン・セラーノ」、イベリコ豚で作れば「ハモン・イベリコ」となる。

驚くのはその熟成期間で、グルメミートワールドで扱う生ハムは、短いもので16カ月、長いものだと48カ月以上にもなる。それだけの長期の熟成に耐えられる肉質の良さと、職人による加工技術の高さが、この生ハムには詰まっているということだ。

そんな話を聞いてから食べる切りたての生ハムは、私が今まで食べてきたものと、まるっきり別物の生ハムだった。これが本物の生ハムなのか。

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40カ月熟成のハモン・セラーノ。長期熟成だけあって、赤身部分の味の濃さにびっくりした。

今回は特別に3種類の生ハムを食べ比べるという贅沢をさせていただいたのだが、どれも日本で食べる生ハムとは全然違うものだった。いや、ここも日本なのだけど。

肉の繊維と同じ方向で切られた生ハムは断面が滑らかで、噛むと簡単にホロホロと崩れていく。この食感は切りたてならではなのだろう。

塩分は思っていたよりもだいぶ薄いのだが、後味がしっかりと残るので、口に入れてから幸せの続く時間が長い。

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これはスペインのトレベレス地方で作られる無添加のハモン・セラーノ、ハモン・デ・トレベレス。

豚は食べたものによって味が大きく変わってくるそうで、上質のイベリコ豚のように放牧されて育った豚は、人間が与える飼料以外に、ドングリや草、木の根などを食べるので、肉の味が深くなるという。

もともと肉が持っている素性を拡張するのが熟成。豚肉は熟成をかければかけるほど、食べてきたエサの味わいがさらにでてくる。だからこそ、長期熟成をする生ハムは、豚肉の素性が大切となる。本物の発酵食品に、賞味期限はあってないようなものなのだそうだ。

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ハモン・イベリコ。ベジョータと呼ばれるドングリを食べて育ったイベリコ豚の最高級生ハムは、脂が口の中でフワッととろけていく。

初体験の生ハム原木は、強烈に食欲と物欲を刺激してくる。私はこの3種類の味を正確に伝えるだけの舌と表現力を持っていないので雑に表現するけれど、どれも個性的で、どれもびっくりするくらいおいしい。

たぶん、もうレストランなどで生ハムを頼むことはないだろう。この味と比べてガッカリしたくないから。なんていいたくなるくらいの衝撃なのである。

どれも材料としては塩と豚の組み合わせだけなのに、そこに職人の技術とスペインの気候が加わることで、これだけ個性的で深みのある食べ物になるのだからすごい。

食べ慣れなれていないものは、それがおいしいのか理解できないことが多々ある。生ハムも普通の日本人は食べ慣れていないと思うが、発酵による熟成の旨みは日本人にも馴染みのあるものなので、このおいしさはすぐに理解できると思う。

生ハムとワインのマリアージュ

田村さんのこだわりは、生ハムだけにとどまらない。お客さんからの「生ハムに合うワインって探すとなかなかないんだよね」という声に応えるべく、スペインで探し求めた生ハムに合うワインの輸入販売をおこなっている。

それも普通のワインではなく、現地のバルでしか飲めないようなレアなワイン。

生ハムの生産者と一緒にワイナリーまで行って、自分たちの舌で相性をいろいろ試してから、そこの醸造家と交渉して直接送ってもらっているというこだわりっぷりだ。

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生ハムとワインが好きだからこそこだわっているというのが、話を聞いていてしっかりと伝わってくる。

スペインのワインというのがどんなものなのか知らなかったのだが(フランスもイタリアも知りませんが)、確かに生ハムと合わせると、なんだか楽しくなってきてしまう組み合わせだ。

素人の舌にも、このワインが「特別なもの」である感じが伝わってくる気がする。

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ワインだけでなく、もっとお客さんに楽しんでもらうためにと、サラミやチョリソー、チーズなどの発酵食品も、本物を揃えている。

ワインと料理の組み合わせをマリアージュ(結婚)と呼ぶのであれば、田村さんのことは敬意をこめて「仲人さん」と呼ばせていただきたい。

うっかりすると、ここで仕入れたものを出すお店を、北千住あたりでやりたくなってしまいそうで怖い。

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意識を遠くスペインまで飛ばして、ワインと生ハムのマリアージュを楽しむ。ご結婚おめでとうございます。

憧れの生ハム生活を想像してみる

グルメミートワールドで生ハムの原木を注文するのは、レストランなどの業者と個人で半々くらいらしい。生ハムを丸ごと買うなんて、マグロを一本買うくらい現実味のない話のようだが、生ハム生活を楽しんでいる人は想像以上に多いようだ。

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赤身と脂身のコントラストが美しすぎるハモン・イベリコ。これを眺めて生活したい。

とりあえず、ちょっと想像をしてみよう。家に生ハムの原木がある生活を。

そうだ、床の間に壺やキジの剥製の代わりとして飾るというのはどうだろう。

そして来客があれば、おもむろにその原木をナイフで切っておもてなしだ。

鰹節を削ってダシをとるように、ベランダのプランターからバジルを摘むように、生ハムを原木から切ってオードブルを出すのだ。

我が家には床の間がないけれど。

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黒い蹄がイベリコ豚の証。

生ハムを一本まるごと手に入れることで、熟成が進むことによる肉質の変化や、部位ごとの味の違いをすべて楽しめるというのも大きな魅力である。

田村さんの話だと、脛にある骨と骨の間に少しだけある肉がとてもおいしいそうだが、それを味わうのは原木オーナーにのみに許される快楽なのだろう。

結婚のお祝いに贈る人も多いそうで、時代はケーキ入刀ではなく、生ハム入刀なのかもしれない。キャンドルサービスの代わりに生ハムを切り分けながらテーブルを回ったら盛り上がりそうだ。

原木といえばシイタケの原木栽培も魅力的だが、今欲しいのは生ハムの原木だ。

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軽く温めたパンに乗せて、オリーブオイルを掛けただけで幸せがやってくる。

池田さんの話だと、これがあると外食で生ハムを頼むのが馬鹿らしくなるらしい。

お店で頼めば数切れで二千円とかする生ハム、運ばれてきた段階で一人何切れ食べていいかを計算せずにはいられない生ハムを、食べたい時に食べたいだけ、切りたての状態で食べられる日々の素晴らしさを力説された。

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目玉焼きの上に生ハムをたっぷり乗せるという贅沢をさせていただいた。お店で食べたらいくらとられるのだろうと不安になるハムエッグだが、生ハム原木があれば家でいつでも食べられるのだ。

グルメミートワールドには、ナイフや台など一式セットになったものが、25,000円から用意されている。これなら年末に買ってまだ使っていない釣り竿よりも安い。

他の店でこの値段だと、熟成期間が足りなかったり、後ろ足ではなく前足の生ハムだったりする場合もあるそうだが、ここのは一番安いものでも16ヶ月熟成された6.9キロ以上保証のハモン・セラーノ。可食部分が3.5キロ~4キロらしいので、100グラムあたり650円くらいか。生ハムの相場がよくわからないのだが、一食当たりそんなに量を食べるものではないから、高くはないような気がする。

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目玉焼きと生ハムを一緒に食べた池田さんはこの表情。

常温で一年以上の保存ができるので、賞味期限を気にせず、優雅に生ハムと過ごせるのだから、もはや買わない理由が見つからなくなってきた。

この記事を書きながらも、なにか理由を見つけて注文しそうになっている。

たとえば10人で買ってパーティーでもすれば、一人2,500円で生ハム食べ放題である。ほら、一気に現実的な金額になった。一度で食べ切れる量でもないと思うので、何度も集まれるかもしれない。

ただ、やはり原木をまるまる独り占めするという魅力も捨てがたい。

今、私の選択肢としては、生ハムの原木を買うか、買わないか、という二択ではなく、一人で買うか、誰かと買うかになっている。

【参考サイト】
グルメミートワールド

 

 

 

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