『地球のココロ』というクローズしたサイトで、2013年8月26日に掲載した記事の転載です。
アンズの種を使って、本格的な杏仁豆腐を手作りしてみた。
アンズの種を取り出す
ご存知の方も多いと思うが、本来の杏仁豆腐とは、その漢字が表す通り、アンズの種の中の「仁(じん)」を使って作られるものらしい。
しかし、市販されているものの多くはアーモンドエッセンスが使われているそうで(それじゃアーモンドウフだ)、もしかしたら私は本物の杏仁豆腐の味を知らないのかもしれない。
そこで本物の味を知るべく、アンズの種から杏仁豆腐を作ってみることにした。
7月4日、八百屋でアンズを購入。
そういえば生のアンズを買ったことがないので、アンズの季節がいつなのかよくわかっていなくて、6月くらいから青果売り場をチェックしていたのだが、7月に入ってようやくお目当てのアンズを発見。即購入。アンズはプラムが出回って、少し経ったくらいに収穫されるものらしい。
さっそく種を取り出すべく、ガブリと生で齧ってみたのだが、これがびっくりするくらいに酸っぱかった。まだ未熟だったのか、あるいは加工用に適した品種だったのか。
よく言えば初夏らしい味であるが、杏仁豆腐の甘い味をなんとなく想像して食べたので、ついつい涙目になってしまった。シャクっとした歯ごたえは好きなのだが。
涙目になるくらいすっぱい。
すっぱい果肉はジャムにするとして、今回の本命は種である。
アンズは種と果肉が離れる離核性という性質を持っているそうで、容易に立派な種を取り出すことができた。
これが離核性だ!
すっぱい果肉は砂糖をたっぷりと入れてジャムにしました。
プラムの種は杏仁豆腐に向いていない
これは余談になるが、杏仁豆腐を作ろうと思いついたものの肝心のアンズがなかなか売っていなくて、不安になって先に出回っていたプラムの種でつくってみようと思ったのだが、こちらは離核性ではないようで、種の周りに繊維がこびりついて、これが全然とれなかった。
種の周りの酸っぱい部分の繊維がとれない。
アンズとプラム、似たような果物だと思っていたが、杏仁豆腐を作るなら、やはりアンズということなのだろう。
プラムの種を水に漬けておいたら、怪しい水中生物みたいになった。
種を割って仁を取り出す
アンズから種を取り出したところでなんとなく満足してしまい、そのまま冷蔵庫にしまいこんでしまったのだが(杏仁豆腐あるある)、お盆も過ぎた頃に重い腰をようやく持ち上げて、本格的な杏仁豆腐作りを再開。
次の工程はアンズの種から中身の仁を取り出すのだが、このアンズの種が半端じゃなく堅かった。夏の甲子園で優勝した前橋育英高校の守備くらい堅い。
こんなに堅かったら、種を撒いても芽がでないんじゃないかと心配になるくらい堅いのである。
全力を持ってしてもビクともしない。
ペンチで挟んだくらいではまったく割れないので、マイナスドライバーをタガネとして使い、鈍器で叩いで強引に堅い殻を割る。なんとなくイワガキが食べたくなった。
あの柔らかくてフルフルとした杏仁豆腐を作るのに、こんなに泥臭い工程があるなんて知らなかった。そりゃみんなアーモンドエッセンスを使う訳だ。
ちなみに全然知らなかったけれど、アーモンドとアンズは近縁らしいよ。
マイナスドライバーの先がつぶれました。
堅い殻の中に入っていたのは、アーモンド形をした小指の爪くらいの干からびた仁だった。とても小さい。悲しいくらいに小さい。
干からびているのは私が冷蔵庫に入れて1か月以上も放っておいたからだろうか。
アンズの仁、小さい!
これでは杏仁豆腐を作るには仁の量が足りないと焦り、念のためにとっておいたプラムの仁も取り出したが、こっちはさらに小さく、そして軽かった。
吹けば飛ぶようなプラムの仁。
全部集めてもミックスナッツの食べカスくらいの量にしかならなかった。
アンズの出回る季節は短いので、もうすでに売っていない。ならば今が旬で、そして種が大きいモモならばどうだろうと急いで買ってきて丸かじりをした。
モモの種は大きい。これなら期待ができる。
しかし、モモの仁は皮ばかりが大きくて、中身部分は非常に小さなものだった。
残念ながらこれでは使い物にならない。モモは果実を食べるものなので、これは勝手なイチャモモ、いやイチャモンなのだが、期待外れの過剰包装だと叫びたい。
モモの仁。右下の米粒みたいなのが中身。
仕方がないので、この少量のアンズの仁と、さらに少量のプラムの仁を使って、少量の杏仁豆腐を作ってみることにする。
仁から汁を作る
せっせと取り出した僅かばかりの仁を、水と一緒にミキサーに掛けて、仁の汁を作る。これが杏仁豆腐の材料となる訳だ。
すくねー。
ミキサーを回転させて仁を砕くと、溶けたゴムのような匂いと共に(ミキサーがすぐ熱くなる)、あの杏仁豆腐独特の香りが一気にしてきた。
私が今まで嗅いだことがあるのはアーモンドエッセンスで作られた杏仁豆腐だと思うが、それよりも自然な感じの柔らかい香りがする(イメージ的なものがあるかもしれませんが)。
これが本物の杏仁豆腐の香りなのか。
これを茶漉しで濾して、もったいないのでスプーンを押し当ててよく絞ったら、杏仁豆腐の材料となる仁の汁が完成。
色や滑らかさはココナッツミルクのような感じだ。それにしてもいい匂い。
一滴残らず絞り出そう。
粉寒天で固めたら出来上がり
アンズの仁の汁(75グラム)、牛乳(150グラム)、砂糖(20グラム)を鍋に入れて、よく混ぜながら沸騰直前まで温めたら、そこに粉寒天(2グラム弱)を投入してよく溶かす。
たまたま使いかけの粉寒天が家にあったのだが、何のために買ったのかが思い出せない。
寒天が溶けたら、それをまた茶漉しで濾してボールに入れて、冷蔵庫で冷やしたら本物の杏仁豆腐の完成だ。
茶漉し大活躍。
しっかりと固まりました。
ちゃんと杏仁豆腐ができました
固まった杏仁豆腐は、スプーンでざっくりとすくって、この日のためにとっておいたアンズの果実で作った甘酸っぱいジャムを掛ける。これぞ杏杏仁豆腐である。アンアンニン。
出来上がったアンズの種から作った杏仁豆腐だが、ちょっと寒天の量が多かったのか、口の中でフルフルと震えるという感じではなく、ホロホロと崩れるという感じの固まり具合。
これはゼラチンじゃなくて寒天を使ったことも影響しているのかな。
温泉卵じゃないですよ。
もう少し柔らかかったら最高なのだが、それでも味と香りはバッチリだ。そして本物の杏仁豆腐を手作りできたという満足感がとても高い。残りわずかとなった夏休みの自由研究にもピッタリ。アンズの種をどうやって入手するかは置いておいて。
本物の杏仁豆腐作りは、アンズの種を割って仁を取り出すのが面倒くさいけれど、この面倒くさい工程が楽しくもあるので、来年のアンズの季節になったら、またきっと作ると思う。
アンズ1パックでできる杏仁豆腐は二人前程度。アンズの実は買うとそこそこ高いので、将来私が家を買うことがあれば、好き放題つくれるよう庭にアンズの木を植えようと思う。あるいは誰か友人の家の庭にアンズの木をこっそりと植えてやろうと思う(こっちの方が現実的だな)。