私的標本:捕まえて食べる

玉置標本によるブログ『私的標本』です。 捕まえて食べたり、お出かけをしたり、やらなくても困らない挑戦などの記録。

ダチョウやワニやシカが世界を救う?オルタナフードってなんですか

 ※『地球のココロ』というクローズしたサイトで、2014年7月11日に掲載した記事の転載です。

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人口の増加に伴う食料問題に対する一つのアプローチとして、「オルタナフード」を推進するプロジェクトが誕生したそうだ。ええと、オルタナフードってなんですか?

オルタナティブフードとはなにか

「食の選択肢を広げることで未来を変えるAlternative Food Party(オルタナティブフードパーティ)」(以下AFP)とやらを立ち上げたのは、以前ダチョウの件でインタビューをさせていただいた、ダチョウに似ていることで評判の、ダチョウ肉の普及に尽力中の加藤さん。

blog.hyouhon.com

 

AFPの説明・試食会がおこなわれるということで、試食会というくらいだから、加藤さんセレクトのうまいダチョウ肉が食べられるのかなと軽い気持ち100%、予備知識ゼロでやってきた次第である。

「オルタナ」という言葉は音楽の話などでたまに聞くけれど(「オルタナ系っていいよね!」とか)、その単語の意味はよくわかっていない。ジョー・モンタナではないことは確かだろうけど。

f:id:tamaokiyutaka:20190310231837j:plain緊張している様子が伝わってくる加藤さん。

会の冒頭で、まず3種類のお肉が運ばれてきた。赤身が2種類、白身が1種類。紅白でめでたい感じだ。これがオルタナティブなフードなのだろうか。

f:id:tamaokiyutaka:20190310231855j:plain赤身。

f:id:tamaokiyutaka:20190310231909j:plain白身。

f:id:tamaokiyutaka:20190310231927j:plain赤身。

これらがなにか知らない状態で食べて、先入観をなくして味わい、この肉がなんなのかを当てるというクイズ形式の試食のようだが、その前に加藤さんからAFPの説明タイム。

f:id:tamaokiyutaka:20190310231945j:plainまだ食べちゃだめ?

加藤さんの話によると、ここでいう「Alternative(オルタナティブ)」とは「代わりとなる」という意味で、「Alternative Food」は「代わりとして選択できる食材」を指すらしい。

増加し続ける人口によって地球規模での食糧危機問題が目前に迫っており、穀物の不足が確実視される状況で、それらを飼料とする畜産物を食べ続けることは、どんどん難しくなっていく。たとえば牛肉を1キロ生産するのに必要な穀物は、トウモロコシに換算すると11キロ。豚肉なら7キロである。

そこで牛や豚に変わる食材、「オルタナティブフード」を普及させようというのがこのプロジェクトの趣旨のようだ。

オルタナティブフードの例として挙げられたのが、少量の穀物とクワの葉などで飼育可能なダチョウ、人が食べるには適さないような鶏肉でも元気に育つワニ、天敵であるオオカミの絶滅によって増えすぎてしまった日本国内のシカなど。

牛肉や豚肉に変わる選択肢として、これらの「積極的に食べるべき理由のある食材」の普及を図るため、クラウドファンディングで予算を募って、取り扱うお店を増やしたり、消費者に知ってもらうためのイベントをやっていく予定のようだ。

オルタナティブフードの味は?

このような話を聞いた上で、ようやくの試食である。

加藤さんからのヒントは、爬虫類、鳥類、哺乳類がそれぞれ1品ずつとのこと。話の流れからして、ダチョウとワニとシカの肉なのだろうというのはバレバレなのだが、逆をついて牛や鶏だったらどうしようと思いながら試食をしてみる。

赤身肉は表面だけ炙ったタタキ、白身肉は茹でてあるようだ。

f:id:tamaokiyutaka:20190310232007j:plain左右の赤身肉の違いが全く分からない。

まず見た目の違いが私のような素人にはまったくわからない赤身肉から食べ比べてみる。ダチョウとシカに関しては、今までに何度か食べているので、その味を覚えている気になっていたのだが、正直に言って、どっちがどっちだか分らなかった。ははは。こんな自分にがっかりだ。

シカ肉の鉄分の多い感じ、ダチョウ肉のモッチリとした食感、さてそれはどっちに当てはまるのだろう。いやいや、まさかの牛ヒレという懸念も捨てきれない。あるいは馬肉かも。とりあえず両方うまい。

白身肉はワニのはずなのだが、上手に作った蒸し鶏のように柔らかく、独特の甘みとコラーゲンっぽさがあって、これがとってもうまい。ワニはから揚げくらいでしか食べたことのないのだが、こんなにしっとりとした食べ物だろうか。周囲からは「ヘビではないか?」という声が聞こえてくる。ありえる!いや、どうだろう。栄養価は知らないけれど、ダイエット食に最適な感じがする。

さて答えだが、上の写真の左から、シカ、ワニ、ダチョウとのこと。

答えを知ってからもう一度食べると、「ああ確かに!」という気もする。でも目をつぶって食べたら、やっぱりわからないかな。

f:id:tamaokiyutaka:20190310232023j:plain何割の人が全問正解したのだろうか。

オルタナフードが普及するためのポイント

シカは増えすて農業被害が増大し、農家が離農する原因にもなっている動物。シカを積極的に食べることは、適正な数にするための駆除を増やすことにもつながるので、農家や自然を守ることにもつながる。そしてなによりも私好みの味の食材(とかいって、ダチョウと区別がつかなかったが)。

ワニはとても強い動物なので飼育がしやすく、通常なら廃棄されるような老鶏などでも元気に育つ生き物。このような調理法で食べてみてびっくりしたのだが、クセがまったくなく、自分でも料理してみたいと思わせる食材だ。おにぎりに具にしてワニギリとか、カニカマにしてワニカマとか。

ダチョウは生産効率がとてもよく、北は北海道から南は沖縄まで順応してくれる動物。飼育方法とエサによって、その肉質が大きく変わってしまうそうだが、ちゃんとしたノウハウの元で食肉用として育てたダチョウは、変なクセがまったくなく、高級な和牛にも匹敵する味となる。

f:id:tamaokiyutaka:20190310232038j:plainこちらはインドネシアのテンペなどを具にしたオルタナ系ちらし寿司だそうです。

これらのオルタナティブフードはどれもおいしいのだが、牛や豚と同じように食卓に並ぶためには、そのイメージと価格がネックになるのだろう。

国連食糧農業機関(FAO)がまさかの昆虫食を推奨する報告書を発表したが(こちら)、昆虫食に比べればシカやダチョウのほうが食べることに対するハードルは低いだろうけれど(昆虫食を否定する気はないですが)、ワニに関して言えば、昆虫食と同様に「なんでわざわざ…」と思う人も多いだろう。食べ慣れている食材以外のものを、「ゲテモノ」扱いせずにニュートラルなスタンスで食べてもらうのは、けっこう難しいことなのかもしれない。

高級和牛にも匹敵するダチョウだが、おいしいダチョウ肉を生産できる牧場の数が限られていることや、食用肉にするための処理に掛かる費用などの問題で、その値段もA5ランクの牛肉並みとのこと。現時点では、日常的に食べることができる食材というよりは、「ごちそう」としての値段である。A5ランクの牛肉を普段食べない私としては、ダチョウを「代わり」として食べることも難しいだろう。これはシカやワニも同様で、ダチョウほどは高くなくとも、豚や鶏と比べたら、やっぱり割高になりがちだ。

値段に関しては、消費が増えることで生産量が増えていけば、様々なコストが下がって少しずつ手に取りやすくなっていくものなのだろうけれど、「高いから買わない→買わないから作らない→少ないから高くなる」という、消費者と生産者の間にある負の永久ループを、どうにか脱却する必要があるのだろう。

「高いけれどおいしいから一部の人が積極的に買う→生産量が増えて安くなる→安くなったので多くの人が買う」という流れが生まれれば、AFPが掲げる「東京オリンピック開催時に牛の区需要の半分をオルタナフードでまかなう」という壮大な目標も、もしかしたら達成されるのかもしれない。

肉でも魚でも穀物でも、土地でも仕事でも生き方でも、みんなが同じ価値観で同じものを欲しがれば、どうしてもそこに無理が生じてくるから、選択肢はたくさんあった方がいい。

難しいことは置いておいても、とりあえず今日食べたシカ、ワニ、ダチョウは、どれもおいしかったので、もっと手に入りやすくなればいいなと思った。もしかしたらスーパーの食品売り場で、「今日の夕飯はオルタナ系にしよっかな」なんてつぶやきながらワニやシカを手にする日がきたりするのかもしれない。

 


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