※『地球のココロ』というクローズしたサイトで、2014年8月11日に掲載した記事の転載です。
詩人の谷川俊太郎さんを招いた本のフェスティバルが佐渡島で行われた。その実行委員長は(自称)普通の主婦だとか。なかなかたどり着けない山の中の廃校のイベントの様子をレポートします。
「ハロー!ブックス」とはなにか
「HELLO! BOOKS 」(記事内にカタカナと英語の表記が混ざりますが気にしないでください)が行われたのは、佐渡島の南部に位置する川茂地区の廃校。廃校といっても、2013年の3月にその役割を終えたばかりのホヤホヤで、廃校っぽさがない鉄筋コンクリートの築浅物件だ。
この場所の人口が減っているのはわかっているのに、なんでこんな立派な学校を作ったのだろうとかそういう疑問は置いておいて、今回のようなイベントの会場としては申し分のないスペースである。佐渡島中でもアクセスは正直悪い場所なのだが、だからこそ現実離れした時間を味わえるのだと思う。
「本の中に迷い込む」というのがテーマのようだが、会場へとたどり着く前に、「佐渡島の中に迷い込んだ」気分になる。
廃校になりたての旧川茂小学校がハローブックスの舞台。すごい山奥です。
本の世界に迷い込むためのカギが入場チケットになっている。
カギを手にして入ったところで、いきなりピエロらしき人がお出迎え。
そこに現れたのが、グレゴの音楽一座。一人でも一座。
そして肉体芸と音楽の即興コラボがはじまる。なんだこの世界は。
校舎の中はまだまだ現役という感じ。これが廃校なのかー。
舞台が学校ということで、校内放送がオンエアーされていた。
廊下に張られた「しょんたろう」の歓迎!
このイベントはなんなのですか?
よくこの一日のために準備をしたなという感じの校舎内には、びっくりするくらいたくさんの子供たちが訪れていた。もしかしたら廃校になる前よりも多いかもしれない。佐渡にこんなたくさん子供がいたのか。
各教室をめぐる前に、広報を担当している澤村明亨さんから、このイベントの成り立ちについて話を伺ってみた。
佐渡市で地域おこし協力隊をしている澤村明亨さん。
「もともとは、谷川俊太郎さんが『未来ちゃん』という佐渡島に住む少女の写真集に興味を持ち、来島することになったのがきっかけです。その『未来ちゃん』を撮影された写真家の川島小鳥さんと知り合いだった佐渡在住の田中藍さん(このイベントの実行委員長)が、せっかく谷川さんが来るんだからイベントにしたい!よし、本のフェスティバルにしてしまえ!とやったのが、去年の第一回です。そして今年も谷川さんが来てくれることになり、第二回の開催となりました。本と仲良くなろう、親しんでもらおうというコンセプトからスタートして、本という文化に触れてもらうための入り口となるよう、作家さんや編集者など、本を作っている人を島外から呼び寄せています。今回は『本の中に迷い込む』をテーマにして、一つのイベントを一冊の本に見立てました。」
谷川俊太郎さんといえば、私でもその名前を知っているビッグネームだが、「珍しい来客があるから歓迎パーティーでもしましょうか」、みたいなノリでスタートしたイベントの割には規模が大きすぎやしないだろうか。
イベントの発起人であり、実行委員長を務める田中藍さんというのは、佐渡在住の(自称)普通の主婦で、普段は柿栽培のお手伝いなどをしているらしい。このイベントはどこかの会社が出資や仕切りをしている訳でもなく、澤村さんが言うところの『企画魔』である田中藍さんの行動力と、そこに集まった仲間の力で成り立っているのである。田中さんはその持前の笑顔で人を巻き込んでいく力がすごいのだろう。
谷川さんのトークショーで聞き手を務める実行委員長の田中藍さん。そんな主婦、普通いませんよ。
澤村さんはもともと大阪の出版社にいた方で、その後フリーの編集者となり、田中さんから第一回のハローブックスについての相談を受けていたそうだ。そして佐渡の本を作ってみたいと思うようになり、地域おこし協力隊(詳しくはこちら)という仕事を知り、ハローブックスに関わりながらここでの生活ができるならと思って応募したそうだ。今後は本という形にこだわらず、佐渡の魅力を広く紹介できればと考えている。
「この会場は公共交通機関がほとんどない山の中。佐渡でも中心部は関東の郊外に近い感じなのですが、ここ南部は本当になにもない場所。ただ、本当に良いところなんです。佐渡には日本の東西南北が揃っていて、さらに過去、現在、未来もある。過去が残っているだけではなく、近い未来に日本が体験するであろう場所でもあるのです。世界の果てみたいな島だけど、世界の中心だと私は思っています。」
どうやらすっかり佐渡の魅力に憑りつかれているらしい。佐渡、いいところですよねー。
本をめくるように教室を巡っていく
このイベントは、舞台が廃校となった学校ということで、児童たちが学んだ教室や、音楽室、理科室、家庭科室などがほぼそのまま残っており、そこで様々な展示がおこなわれている。
三階建ての校舎を、ゆっくりと本を読み進めるように、何往復もしながら歩いて巡っていった。
ガラガラっと教室の扉を開けたら、なにやら打ち合わせ中。あらあらあらと出ようと思ったら、公開打ち合わせとのこと。
詩人の谷川俊太郎さん、写真家の川島小鳥さん達が目の前にいて焦る。
谷川さん直筆の詩。イベント終了後に消すのがもったいないですね。
「谷川俊太郎があなたのために朗読してくれるAR現象」だそうです。
タブレットをかざすと、画面の絵が動きだし、谷川さんが語り始める。
こちらは佐渡在住のアーティスト、ジョニ・ウェルズさん。英語でオロオロと話しかけたら、流ちょうな日本語が帰ってきた。
ぐっと顔を近づけて覗き込みたいウェルズさんの作品。
田中さんがお願いして実現したという、創刊60年となる「母の友」の表紙展。どんどん変わっていくデザインがおもしろい。
廃校らしくレトロな学習帳の展示も。
本物の葉っぱに大喜びの子供たち。
その葉っぱ、おいしいかい?
チャンキー松本さんといぬんこさんの「おかめとどじょうの間」。
手作り顔ハメパネルでいい表情!
その顔ハメの視線の先にあるものは…
床にねっ転がった子供の目線が、一番ここの展示を楽しめるみたい。
チャンキーさんが似顔絵を切り絵でサササっと作ってくれます。
お、似てる!
どじょうおじさんの人形!たがやせ!たがやせ!
いぬんこさんのイラストがかわいい公式グッズのバッグ。
バラエティ豊かなワークショップ
続いては、誰でも参加できるワークショップのご紹介なのだが、これがなかなかすごかった。
東京で企画したとしても大変そうな数と質のワークショップを、よくぞ佐渡の山の中に用意できたなと感心してしまう。もしかしたら田中さんは魔女の類なのだろうか。なんだか化かされている気がしてきた。まあそれでもいいんだけど。
理科室がよく似合う、植物で立体標本をつくるワークショップ。
ああ、これ小学生の頃に作ろうと思って、素材が集まらなくてやめたやつだわ。
家庭科室では、お話の主人公を和菓子でつくるワークショップ。
なかなか個性的な「主人公」ができあがっていました。
佐渡といえば鬼。ということで、鬼のお面を作るという図工っぽいワークショップも。
なかなかかっこいいお面だね!
糸で織るコースター作りは家庭科の時間かな。
小さい子供でも参加できる、ハンコを押して作るオリジナルのハンカチ体験。
イワイフミさんによるパワパラマンガを作るワークショップ。私がこれを子供の頃に体験していたら、ジブリの制作部門解体はなかったかもしれない、なんていうことはないですね。
鉛筆を削ってアクセサリーを作るコーナー。鉛筆を削るのが人生初という子供もいたようです。
うん、どれも楽しそう。自分がもし小学生だったら、全部参加しようとして、親を困らせていたと思う。
校庭の「しましまーけっと」でお買い物
校庭では佐渡島内を中心に、世界の食べ物や雑貨、本に関するお店が集まった、「しましまーけっと」が開催されていた。物を買うだけの場所ではなく、旅先で地元の人と話すことができる貴重な機会だ。
地元のおばちゃん達の服がキュート!おこし型のだんごって初めて食べた。
直筆サイン本ならぬ直筆クッキー!もったいなくて食べられない!
こちらは佐渡で移動販売をしているマーカスのパン屋さん。
ハロー、マーカス!
「世界の丼」が食べられる出店も。冬に開催だったら、「佐渡の寒ブリ」が食べられたかな。
なぜか販売されていたウサギを真剣に眺める子供たち。
あー、これは欲しくなるねー。でも勝手に買うと親に怒られるよねー。
そして突然降り出した雨。
ドシャドシャ。
でもすぐに晴れた。天気の変わりやすさも含めて、本当に本の世界に入り込んだ気分。
延々と砂場を掘っていた子供たち。特になにかが埋めてあるという訳ではなく、ただ単に掘りたいだけ。
熟練の技を見せる大道芸人に、佐渡の子供が小太鼓で参戦!
アーティストによるイベントも豪華
この日のために佐渡へと集結したアーティストたちによる、ライブやトークショーも校舎内の各地でおこなわれていた。たしかにこれは「フェスティバル」だ。
音楽室がとても似合っていた、東野翠れんさん、湯川潮音さん、谷川賢作さんのステージ。
窓辺で開催された写真家の川島小鳥さんと東野翠れんさんによるミニトークショー。このイベントでは学校のいたるところがステージになっている。
ランチルームでは、チャンキー松本さんによる「たがやせ!どじょうおじさん」の紙芝居。これが想像を超える展開に…
客席になだれ込んでくるチャンキーさん!
そして富士山!(ここに至るまでの細かい部分は省略させていただきます)
そんな感じで「ハロー!ブックス 2014」のイベントが16時に終わると、今度は体育館にて「ハロー!ブックスライブ 2014」が開催された。さしずめハロー!ブックスという本とセットの映像特典といった感じだろうか。
よくこれだけ盛りだくさんのイベントを、佐渡の主婦が柿を育てながら仕切ったもんだなと、感心しながらのんびりと堪能させていただいた。
ライブのチケットはイカの切り絵のバッヂ!
昼間のドンチャン騒ぎとは別の一面を見せたチャンキー松本さんの幻想的な影絵。
二度目の来島となる湯川潮音さんによる、佐渡という場所が似合う透き通る歌声。
ラストは谷川俊太郎さんと息子の賢作さんによる、朗読と歌のアドリブセッション。
最後のあいさつでは、泣き顔になってしまった実行委員長の田中藍さん。
このイベントのすごいところは多々あるのだが、使われることのなくなった山奥の建物に、「こんな風に使えますよ!」というモデルケースを作ったことだと個人的には思う。どうでしょう、市長さん。
この廃校を使った大掛かりなイベントというのは今回が初めてだそうだが、抜群のアクセスの悪さは置いておいて(逆にメリットだと考えたい)、この場所には無限大の可能性があるように感じた。今回のようなイベントだけではなく、劇団のワークショップなり、謎解き脱出ゲームなり、なにかをやってみたいと思う人は島内外に多くいるのではないだろうか。
このハロー!ブックスは、来年、そして再来年の分まで、田中さんの頭の中になんとなく計画があるそうなので、興味のある人は、どうにかしてこの場所まで辿りついてほしいと思う。
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