私的標本:捕まえて食べる

玉置標本によるブログ『私的標本』です。 捕まえて食べたり、お出かけをしたり、やらなくても困らない挑戦などの記録。

さようなら、カウボーイ

 

 

 

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髪が伸びてきたので、いつもの床屋に行った。

スタンプカードの制度が無くなって以来、前回がいつだったのかわからなくなったのだが、たまたまブログに散髪した話を書いたのでわかる。やっぱり2か月前だった。

blog.hyouhon.com

 

時刻は平日の11時半、まず少し離れた駐車場へ向かうために車で店の前を通ると、カウボーイ(店主)は店の外で休憩していた。ちょっと目が合った気がした。お客さんは誰もいないようだ。

車を止めて店へ行くと、カウボーイは店内の椅子に座っていた。私に気が付いて待っていたのかは謎。まだお客さんは誰もいない。

名簿に名前をなんて書こうか問題については、ちょっと迷ったのだが、前回なんて書いたのかも忘れたので、また本名に戻してみた。

順番を待つ必要はないので、すぐコートをハンガーにかけて、イスに座る。名前については、特に何も言われなかった。向こうも特に覚えていないだろう。

 

「今日はどうしますか?」

「2センチくらい」

 

いつものやりとりをする。2か月に一回だけ、私がこの町に住んでいる間、ずっと続く言葉のキャッチボールだ。

切り始めてしばらくして、珍しくカウボーイから話しかけられた。

 

「次からはちゃんと説明しなさいよ」

 

あれ、これはどういうことだろう。

2センチくらいというアバウトな注文ではダメだったのだろうか。

それにしても今更いうかそれ。

なんて思ってたら、言葉には続きがあった。

 

「私、2月までだから。次が誰かわかんないけど、ちゃんと伝えてね」

 

おっと、なんだこの突然の別れ。

なんでもこの店のオーナーさんが体調崩したそうで、本部直営になるから店舗スタッフが変わるらしい。その辺のシステムはよくわからないが、とにかくカウボーイは2月で退職するそうだ。

もう次の店が決まっているのだろうか聞いてみた。もし近所の千円カットなら、私も一緒に移籍しますよ……とは伝えないけど。

 

「働かないわけにいかないでしょ。これから探すよ」

 

気の利いた返事も思いつかず、会話はここで終了した。

ラジオでは通信販売で何かを訴えているが、全く頭に入ってこない。

女性客が「はじめてなんですけど」と言いながら入ってきた。

鏡越しに見ながら「チケット買ってください」と、ぶっきらぼうに答えるカウボーイ。

 

ここに通い始める前、別のところに入ったら、明らかに専門学校を出たばかりの若い研修生みたいな担当にあたって、最後に「こちらで大丈夫ですか?」と聞かれて、「これで大丈夫だと思いますか?」と答えそうになったことがある。1000円カットに期待する方が悪いのでなにも文句は言わなかったけど。それを思うとカウボーイは完璧だった。

 

そんなことを思っているうちに散髪が終わった。

いつもよりちょっとだけ丁寧なカットだったかもしれない。

いつもより大きな声で「ありがとうございました」といって店を出た。

 

変わることがないと思っていた日常が、こうして一つ終了した。

泣くほどでもない話なので、涙は出なかった。

だから何だという話なのだが、個人的には久しぶりのさよならだなと思った。

 


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