私的標本:捕まえて食べる

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日本で唯一人のチベット医による薬草茶ワークショップ

※『地球のココロ』というクローズしたサイトで、2012年5月7日に掲載した記事の転載です。

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日本唯一のチベット医である小川康さんが講師を務める、薬草茶作りのワークショップに参加してきた。

外国人初のチベット医、小川康さんの薬草茶ワークショップ

富山県氷見市でおこなわれた『あるくとであう』というイベントで、『チベット医が氷見のはとむぎに目を付けた!』という、大変気になるワークショップがおこなわれた。

『はとむぎ』と『チベット医』である。

組み合わせが唐突過ぎて、タイトルからは内容が全く見えなかったのだが、どうやらチベットの亡命政権が置かれているインドのダラムサラでチベット医学を学んだ、日本で唯一人、そして外国人初のチベット医師である小川康さんに教わりながら、氷見市のはとむぎをベースに様々な薬草をブレンドして、自分の体に合った『My薬草茶』を作るというワークショップらしい。

小川さんはここ富山県氷見市の隣、高岡市の出身で、東北大学の薬学部を卒業した薬剤師なのだが、なんやかんやがあって、2009年に外国人初のチベット医となったという、まるっきり謎だらけの経歴の持ち主だ。

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小川さんがチベット医になった経緯については、「僕は日本でたったひとりのチベット医になった」を読んでください。他人事ながらハラハラしてしまう本です。

僕は日本でたったひとりのチベット医になった ヒマラヤの薬草が教えてくれたこと

僕は日本でたったひとりのチベット医になった ヒマラヤの薬草が教えてくれたこと

 

チベット医学の始まりは薬師如来によって説かれたとされており、八世紀に編纂された『四部医典』という教典が、今でも変わらずチベット医になるための教科書となっている。

日本で杉田玄白が書いた『解体新書』よりもずっと古い本を、現代でもそのまま医学書として使用しているのだ。チベットすげえ。

小川さんに言わせると、チベット医師は自らの手で300種類以上にも及ぶ薬草を採って調整することができるので、『なにもない無人島でも治療をおこなえる唯一の医者』なのだそうだ。

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用意された薬草は、ヨモギ、ビワの葉、ドクダミなど、チベットにいかなくても手に入れられる身近なものばかり。

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薬草茶のベースとなるのは、この氷見産のハトムギ。ちゃんと抗腫瘍成分があるそうです。

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これらはチベット医である小川さんが自分の手で集め、焙煎をした薬草達。だからこそ効能の説明には説得力が感じられる。宗教などと同じく、患者が医師と薬を信じられることが大事なのかも。

薬草茶のテイスティング

自分の体調に合ったMy薬草茶をつくるための第一歩は、小川さんが用意した薬草を一種類ずつ説明を伺いながら飲んで、その味と効能を覚えていく作業。平たくいうとお茶会だ。

ワインや日本酒の試飲会にも似ているが、当然アルコールは入っていないので、酔っ払わずに最後まで楽しめる。しかし、一回飲んだくらいでは、味も香りも見た目も効能も名前も(要するに全部)、一つもまともに覚えられないのが悔しい。

チベット医になるには300種類以上の薬草を覚えなくてはならないそうなので、どうやら私はチベット医に向いていないようである。

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日本で唯一人のチベット医に次々とお茶を入れてもらうという、人生に一度あるかないか(普通はない)の贅沢な時間。

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お茶の見た目は濃淡の違いくらいで、ほぼ同じ。味は違うのだけれど、その違いが覚えられない。

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出されたお茶を飲みつつ、味と効能を紐付けながら名前を覚える作業が楽しい。全然覚えられないけれど。

薬草にはおいしく収穫するタイミングというのがあるそうで、その目安は害虫が発生する直前。虫が増えるとその植物は食べられないようにタンニンなどの苦味成分を出してくるので、お茶にしたときに苦くなる。その前に収穫するのがコツなのだとか。

収穫時期以外にも、乾燥の方法や焙煎の温度で、見た目や味が変わってくるのが薬草茶。そんな話を聞いていたら、普段はお茶を入れて飲んだりしないくせに、自分でも薬草を摘むところから一度やってみたくなってきた。うっかり猛毒のトリカブトとかを摘みそうで怖いけど。

自分のための薬草茶をブレンドする

一通りのお茶を己の五感で試したところで、本日のメインイベントであるMy薬草茶作りに取り掛かる。誰のための、何のためのお茶なのかイメージを作り、オリジナルブレンドの薬草茶を作るのだ。

まずは小川さんのお手本から。お店のスタッフの方に体調を聞いて、薬草茶のベースとなる氷見のはとむぎ茶に、その人に必要な薬草を加えていく。

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「こういうカフェが病院の中にあったらいいですよね」と小川さん。なるほど確かに。

今日用意していただいた薬草は、薬事法上、医薬品として扱われないレベルのもの。野球でいえばアマチュアレベルの効能ということなので、一番大切なのは、日常的に飲むために「おいしい」と感じること。

良薬は口に苦しというけれど、薬草茶は毎日続けてこそのものなので、おいしいほうがやっぱり嬉しい。味と効能のバランスを考えながら、飲み続けられるお茶をブレンドすることが肝心のようだ。

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素材が一種類のお茶より、何種類かを上手にブレンドをしたお茶の方がおいしいようです。その人の体調に合っていれば、さらにおいしく感じられるのだとか。

私がMy薬草茶に求めたのは、花粉症対策。この日はまだまだ杉花粉が飛びまくっている時期だったので、この不快感を少しでも和らげたいところ。小川さんのアドバイスに従い、はとむぎにイラクサなどを加えてみることにした。イラクサって、子供のころによく足にひっかかったあの草か。

せっかくの機会だからと、小川さんがこれは高いといっていた薬草を多めに入れてしまうあたり、花粉症の改善よりも、煩悩を消す効能が必要なのかもしれない。

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欲張って何種類も入れてしまった。

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組み合わせがよくないと、こんな風に成分が消しあって濁ってしまうそうです。渋い!

何回かオリジナルブレンドを試し、胃袋をタポタポさせながらも、なんとなく口に合う味のお茶を見つけることができた気がする。味だけではなく、効能も考えながら組み合わせるというところが面白かった。

今回のワークショップでは、小川さんが用意した薬草茶をブレンドするだけだったが、せっかくチベット医に教わるのであれば、できれば一緒に薬草を集めて、乾かして粉砕し、焙煎するという一連の流れを学んでみたいところである。

もちろんチベットで。

いや、ここ氷見で十分ですけどね。

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これで今年の花粉症はどうにか乗りきれました。

三千年前の伝統医療というと、どれだけ効果があるのか怪しんでしまう部分も正直あるけれど、私たちが普段飲んでいるケミカルの薬が、もともと自然界に存在する有効成分を効率化して精製したのだとすれば、チベット医が自然界から採ってきた薬草にも、非効率ではあったとしても、なんらかの効能があるというのは道理といえる。

なんでも医者や薬局を頼る前に、なにか自分でもできることがあるような気がしてきた。もちろんケースバイケースなのだけど。とりあえず家にいるときは、市販の清涼飲料の代わりに、薬草茶を飲んでみようと思う。

東北大学で現代医学の薬剤師資格を取り、ダラムサラで伝統医療をおこなうチベット医となった小川さんは、最近よくいわれるようになった「食育」のように、「薬育」という考えを教育の中に入れたいと考えているそうです。

【参考サイト】
チベット医学・薬草研修センター
風の旅行社(小川さんの講座)

 

 

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