※『地球のココロ』というクローズしたサイトで、2013年11月22日に掲載した記事の転載です。
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乾物のスルメといえば、スルメイカやヤリイカが一般的に使われているが、最高のスルメを作るべく、贅沢にアオリイカでスルメ作りに挑んでみることにした。
まずはアオリイカを釣ってくるところから
今年の正月の目標は、コタツに入って猫を撫でながら、日本酒をチビチビとやることである。我が家にはコタツも猫も存在しないが、実家に帰れば両方揃っている。
その際に用意したいつまみこそが、今回チャレンジする最高のスルメだ。「肴は炙ったイカでいい」とうい歌の文句があるけれど、個人的には「肴は炙ったイカがいい」と歌ってほしいくらいである。
アオリイカという肉厚で甘みの強い高級なイカを使えば、きっと最高のスルメができるはず。そこで生きたアオリイカを確保するべく、船に乗ってアオリイカ釣りに挑戦したのだが、この日は残念ながらモンゴウイカ(正式名称はカミナリイカ)しか釣れなかった。
しかし、このモンゴウもアオリイカ以上に肉厚で、とてもおいしいイカである。きっとスルメにしてもおいしいだろう。
これがモンゴウイカ。スミイカ(正式名称はコウイカ)の親戚。イカの名前はややこしすぎる。
アオリイカは同行者がたくさん釣ったのをもらえることになったので、この鮮度抜群のモンゴウイカとアオリイカを使って、バチが当たりそうなほど贅沢なスルメ作りに挑戦だ。
こっちがアオリイカ。甘みがあってとてもうまい。
イカを捌く
まずは持ち帰ったイカを腹側から捌いて、内臓、目玉、口、背骨、吸盤をとる。どちらのイカも厚みがあって、独特の張りと弾力があり、とてもおいしそうである。
スルメにしない分を刺身やフライで食べてみたら、実際にとてもうまかった。これをスルメにしてしまうのだから、これこそ贅沢というものだろう。
これはアオリイカ。透明感のある美しい白さ。
こっちがモンゴウイカ。この厚みが干すことでどうなるのだろう。
捌いたイカは、海水よりちょっと濃いくらいの塩水でもみ洗いして、そのまま20分ほど漬けてみた。多少塩分があったほうが、イカも腐りにくいだろう。
身の厚いイカをスルメにするにあたって、一番の不安は腐敗なのである。腐って敗れると書いて、腐敗。ああ、恐ろしい。
このままサッと茹でて食べてもうまいんだけどね。
イカを干す
よく洗った干物用のネットに水分をしっかりと拭き取ったイカを広げて、ベランダで天日干しスタート。さて何日で干し上がるのやら。というか、天日だけでちゃんと乾燥してくれるのだろうか。
腐敗と熟成の一本勝負の行方や如何に。
腐るなよ!(長州力風に)
天日干しの一日目、当然まだスルメにはなっておらず、まるっきりイカのまま。このまま刺身で食べられそうだ。
そこで夜は吸水シート(ただしペットのトイレ用ですみません)でしっかりとくるんで、冷蔵庫に入れておくことにした。
このくらいの乾燥具合で焼くのが一番うまいような気もするが。
翌日からも昼間はベランダで天日干し、夜は冷蔵庫で吸水シート干しを続ける。
さらに天気が悪い日は、室内で扇風機の風を間近から当てて干してもみた(部屋がとてもイカ臭くなる)。
腐敗が不安になって、全体にアルコールを吹きかけたりもした。
こうなったら(どうなったんだ)、どんな手を使っても干しあげてやるのだ。
なかなか大変。干せ、面倒さ。ホセ・メンドーサはあしたのジョーに出てくるボクサー。
スルメイカを追加
干し始めてから5日目、ここでやっぱり基本に帰ってスルメイカを使ったスルメも作るべきではと急に思い立ち、ではスルメイカを釣りに行こうかと思ったがあいにく天気が悪かったので、刺身用をスーパーで買ってきた。
お刺身で食べられるイカで作ってこその手作りスルメ。
スルメイカも他のイカと同じように捌いて、先輩たちが待っている干物用のネットに合流。
スルメイカだけあって、スルメらしいフォルムだ。
このタイミングで、新人のスルメイカと交代するように、一番小さなモンゴウイカをネットから出して、試食してみることにした。
スルメと呼ぶにはまだちょっと早そうだが。
モンゴウイカの5日干し
5日間干したモンゴウイカは、一夜干しとスルメの中間といったところだろうか。水分がだいぶ抜けて、二回りくらい縮んでいる。その分うまみが凝縮していることだろう。
まだ生乾きなので、そこそこの硬さではあるけれど、ゴムのような弾力がある。
不安だった腐敗についてだが、なかなかのイカ臭さを放ってはいるが、腐敗臭はしないので大丈夫っぽい。
ずいぶん小さくなってしまった。
グリルで軽く炙る。
魚焼きグリルで軽く炙った一夜干しならぬ五日干しのモンゴウイカの断面を見てみると、表面部分がスルメ状で、中身が一夜干しという、不思議な状態になっていた。
ゲソの短さがモンゴウイカの特徴。
スルメに挟まれた一夜干し状態。
これを一味マヨネーズで食べると、そのおいしさに濃さに驚いた。うまいだろうなとある程度予想はしていたが、その予想通りで驚いたのである。
外側の硬い部分に守られた柔らかい内側の身が、しっとりと実においしく焼けている。素晴らしい。
モンゴウイカが持つ甘さや旨さがギュッと凝縮されており、刺身やフライとは違った魅力に満ちている。
この状態で完成といってしまってもいいのだが、せっかくなのでもう少し干し続けてみる。
最高のスルメが完成した
そこからさらに5日、トータル10日も干すと、イカはすっかりスルメになった。悲しくなるくらいの縮みっぷりだが、これが私の選んだ道だ。
あんなに立派だったアオリイカがこのサイズに。
エモーショナルなポージングのアオリイカ。
モンゴウイカもすっかりカラカラ。
おっかけで作ったスルメイカは、まさにスルメらしいスルメとなった。
こうして出来上がった正月用の特別なスルメ。
望みどおり最高の味になっているのか、アオリイカを炙ってチェックしてみよう。
添えるのは当然一味マヨ。
中までしっかりと干し上がっている。
自分で釣った(というのはウソだが)アオリイカで作ったスルメだが、これがびっくりするくらいに硬かった。犬用のガムかという壮絶な硬さである。
刺身で食べるアオリイカは柔らかいのだが(エンペラが最高)、スルメにするとここまで硬くなるのか。ああ、5日目に食べた半乾きのモンゴウイカが懐かしい。
硬い!
ただし、硬いけれどスルメとしては抜群にうまい。さすがはアオリイカで作ったスルメ。
イカとしてのおいしさでいえば、正直なところ生乾きくらいが好みだが、スルメとしては一級品だ。
噛み続けてたっぷりとつけたはずの一味マヨの味がなくなってきた頃に、イカの旨味が口いっぱいに広がってくるのである。まさに噛めば噛むほどうまくなるというやつだ。スルメとは本来こういうものなのだろう。それにしても顎が疲れる。
これこそ、コタツで猫を撫でながら、日本酒を飲みつつ齧るスルメにぴったり。一切れで1時間くらいは噛んでいられるかもしれない。
このスルメをお供に、今度の正月は華麗に寝正月を極めたいと思う。
スルメイカで作ったスルメは、この原稿を書きながら焼いたら痛恨の焼き過ぎに。
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