数日前に北海道在住の友人、櫻田智也の新刊「蟬かえる」が届いた。
蟬が機種依存文字なので「蝉かえる」と書くべきなのかな。
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いや友人は嘘かもしれない。実際にあったのは一度、デイリーポータルZのイベントで、当時お台場にあったカルチャーカルチャーで軽く挨拶をしたことがあるだけだ。
岩手に住んでいた櫻田さんは、震災後に出身地である北海道へと戻り、いつのまにかミステリー小説の作家になっていた。櫻田さんの文章は、デイリーに連載していた「本人の目線で語られるヴィジュアルインパクトが最高の体験レポート」しか読んだことが無かったので、紙に縦書きで印刷された文字だけの長文でも飽きさせない筆力に驚きつつ、羨ましくも思った。もし最初から小説家を目指していたのであれば、デイリーへの寄稿はどういう意図の遠回りだったのだろう。
デビュー作の「サーチライトと誘蛾灯」、その感想をこのブログにしっかり書いた覚えがあったが、見返したら特に中身のない紹介だった。まあいいか。
前作は昆虫好きの青年である魞沢泉が、たまたま出逢った事件の謎をちょっと俯瞰した立場から飄々と解くミステリーだった(っけ?)が、本作は出来事自体に魞沢泉本人が関わっている話が多く、目の前で起きた殺人事件の謎を解いて真犯人を捜すというミステリーのフォーマット(二時間ドラマとかコナンとかのアレ)から大きく外れている。
ミステリー小説だからそういうもんだろうなと思って読み始めると、全話で裏切られることになる。まったく先の見えないストーリーに「これは一体何の話なんだろう?」と思いながら読み進めると、途中から物語の芯がはっきりした輪郭で見えてきて鳥肌が立つ。
犯行のトリックではなく、その事件に至る動機、心の揺れこそが主役の物語。
収録されている物語は5篇。セミ、クモ、甲虫(フンコロガシ)、ホタル、ハエと、どれも昆虫の存在が重要な鍵となっているが、それは謎を解くためのものではなく、昆虫好きの魞沢泉というキャラクターと各物語をつなぐチェーンキー。魞沢泉が虫に詳しいだけで、別に読む側が虫に詳しい必要はない。ただ虫好きの方がピンとくるかも。
ネタバレにならない程度に訳の分からなさ(良い意味で)を書くと、本のタイトルにもなっている「蟬かえる」は、山形県にある架空の神社周辺を舞台とした物語で、ずいぶん緊張感のあるスタートを切ったなと思ったら、昆虫食を研究している大学の非常勤講師がふわっと登場して、なんだなんだこの展開はと心がざわめきだして……
ええと、何を書いてもネタバレになりますね。こういうミステリーの紹介ってどうやって書くのが正解なんだろう。タイトルから内容が予測できないことも含めて作品なのだと思うので、ここまで書いておいてあれだけど、私がそうだったように、前情報なし、先入観なしで、ページを捲っていただくのがいいのかな。
といいつつ内容がわからなすぎるのもあれなので、櫻田さんのツイートを張っておく。
発売から1週間が過ぎてしまいましたが、1週間前のWebミステリーズ!に新刊の〈読みどころ〉を書いてもらってます。
— 櫻田智也 (@annoyance2) July 18, 2020
どんな感じの本かなー。と思ってるかたに、どうぞ。 https://t.co/yo6Fkpfu36
昨晩、翌日(今日)が大雨の予報のため楽しみにしていた撮影が中止になったので、ならばと夜更かしをして一気読みしたのだが、遅く起きたらカラッと晴れていて腹が立った。行けたじゃん。
櫻田さん、お元気そうで何より。
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