東京都墨田区錦糸町で毎年開催されている「すみだ錦糸町河内音頭大盆踊り」というイベントがある。数年前にその存在を知って、ずーっと気になっていたのだが、今年ようやくいくことができた。河内音頭というのがなんなのかはまったく分かっていないんだけどね。
首都高の下でおこなわれる盆踊り
数年ぶりの盆踊りになんだか張り切りすぎてしまい、まだ全然明るいうちに会場へと到着。最近は都会だと盆踊りをやるスペースがなかなかないらしいので、どんな場所でやるのかと思ったら、首都高の真下という場所だった。すげえ。
確かにここなら頑丈な屋根もあるし、大きな音を出しても大丈夫そうだ。
盆踊りというよりも、なんだか花見の席っぽい。
会場の両サイドには屋台がびっしり。佐世保バーガーいいなあ。
自分が林家一門だったら即買いの派手なオフィシャルTシャツなども売っている。
会場の一番奥には、やぐらではなく立派なステージが設置されており、その前がどうやら踊るスペースになっている。そして一番入口寄りはなぜかブルーシート。場所取りにしては広すぎるスペースだ。私の知っている盆踊りとは、始まる前からだいぶ違う。
開演して驚いた
屋台の佐世保バーガーを買おうかどうか迷っているうちに(結局焼き鳥とフランクフルトにした)、ステージ上で演奏が始まった。
よ、待ってました!(なにが起こるのか分かっていないけど)
私は埼玉育ちなのだが、盆踊りというと、やぐらの上からスピーカーで「炭坑節」とか「ドラえもん音頭」が流れるものだと思っていたのだが、ここの盆踊りはなんとスタートから生歌に生演奏。生ライブなのである。しかも三味線と和太鼓はわかるとして、もう一人がエレキギターでリズムを刻んでいる。なんだこりゃ。
そしてその演奏に合わせて踊る観客。みんなバラバラな踊りに見えるのは気のせいだろうか。
歌も関東の盆踊りソングとは全く違い、抑揚が強くソウルフル。思い出した。だいぶ前に「From A」というアルバイト情報誌のCMで流れていた「かーかきんきんかーきんきん」という曲の節回しだ。そういえばあれは河内家菊水丸という人が歌っていたんだった。
なぜ錦糸町で河内音頭なのか
まさか錦糸町の首都高下が毎年こんなことになっているとは知らなかった。この祭りを私が紹介するにはちょっと謎が多すぎるので、錦糸町河内音頭のオフィシャルサイト、「盆踊り広場☆イヤコラセ東京」の管理人であるいちばさんに話を聞いてみた。
アロハの下にさりげなくオフィシャルTシャツ。以下いちばさんのセリフも標準語で書いていますが、本当は関西弁です。
--まず根本的な質問なのですが、河内音頭ってなんですか。
いちば:「落語」とか「浪曲」みたいな芸能の一ジャンルと考えてください。大阪の盆踊りでは、みんなこの河内音頭で踊るんです。
--なるほど。河内音頭っていう曲名だと思っていました。東京音頭みたいな。
いちば:曲の内容は、国定忠治とかそういう古典っぽいのが多くて、それを歌い手がアレンジして、アドリブを入れながら歌うんです。ジャズみたいでしょ。
--ジャズというか、落語というか。生歌生演奏なのが驚きました。
いちば:大阪では町内会の盆踊りでも、生歌生演奏が基本。河内音頭は百派千人といわれるくらい会派と歌い手が多いんです。この時期、大阪では毎日どこかで河内音頭の盆踊りをやっていますよ。
--今日の歌い手さん達も大阪から?
いちば:もちろん!この祭りのために大阪からオールスターを揃えたといっても過言じゃないですね。東京には河内音頭を歌える人はいないんじゃないかな。一曲が短くて15分、長いと40分を超えるから。
ちなみに今日イチオシの歌い手は月乃家小菊さんだそうです。河内音頭ではなく江州音頭の歌い手さん。節回しが違うらしいよ。
--ところでなぜ錦糸町で河内音頭なんですか。
いちば:この祭りは今から28年前の1982年にスタートしたんだけど、きっかけは東京の音楽関係者の間で「大阪にすごい音楽がある」ということで河内音頭が話題になった事なんですよ。実際見たらやっぱりすごいと。それでぜひこれを東京でやろうってなって、錦糸町で開催したんです。最初はパチンコ屋の2階を借りてやっていたんだけれど、地元の人達が「これはおもしろい!」とだんだん協力してくれるようになって、今日まで続いています。
--入場無料のイベントでこれだけ大掛かりなステージをやるって大変ですよね。
いちば:どうにか地元や企業の協賛、お客さんからの寄付金だけでやっています。まあお金を集めるのも大変だけど、毎年楽しみにしている人が多いから、もうやめられないですね。
カンパは100円からでOK。入場料だと思ってカンパしよう。
--ちなみにいちばさんは大阪出身なんですよね。
いちば:いや、僕は和歌山出身なので、ここで初めて河内音頭に出会ったんです。 あはは。
盛り上がってまいりました
初めて目の当たりにする河内音頭というのは、落語の枕みたいなアドリブをメロディに乗せて歌ったり、歌の途中に「浪花恋しぐれ」みたいな語りが入ったりと、意表を突かれまくり。和太鼓に三味線、エレキギターにベースという和洋折衷のバンド編成も耳に新しい。
やっぱり生演奏というのがたまらない。いったことないけれど、ロックフェスってきっとこんな感じなのだろう。
この祭りを関東に持ってきたくなった気持ちがわかる。
いちばさんおすすめ、音頭界の歌姫こと小菊ちゃん。
そして舞台横から見守るいちばさん。
自らギターを弾くというロックな歌い手さんも。
日が暮れる頃にはお客さんも随分と増え、平日なのに広い会場は人でいっぱい。謎だった入口付近のブルーシートは、お客さんが座るためのスペースとなった。このエリアはまるっきり花見感覚。なるほど、こういう楽しみ方もあるんだね。
高速道路の下とは思えない雰囲気だ。
こうなると踊りたくなる
ステージ前に陣取って、関東ではめったに聞けない本物の河内音頭をじっくりと楽しむのもいいのだが、この祭りはあくまで盆踊り。踊りの方に目を向けてみると、すでに会場内には二重、三重に踊りの輪ができている。
この踊りもまた関東のそれとは違っていて、まずみんなの踊りが全体的にバラバラ。そしてみんな跳ねまくり。関東でいう盆踊りよりも、動きはヨサコイとかの方が近いかな。特に輪の内側へいくほどにその自由度は増している。
いちばさん曰く、踊り方には「手踊り」や「流し」という基本的な型があるのだが、それをベースにオリジナルで踊るのが河内音頭の盆踊りとのこと。
踊りが早すぎて写真がぶれまくるぜ。
曲に合わせて各自が踊りたい踊りを踊る。
まわりと波長が合えばみんなで同じ踊りを一緒に踊る。
歌い手がみんなを踊らせ、踊り手が歌い手に歌わせるという幸福な空間。
こう書くと、とても踊りの素人が入っていけない気がするが、輪の外寄りなら基本的に同じ踊りをみんなが繰り返し踊っているようだし、多少変な動きをしても、ぜんぜん違う踊りを踊っている人がいるくらいなので目立たなそうだ。というか別にだれもそんなのは気にしていない。
ということで、私もカンパで手に入れた団扇を持って、踊りの輪の中に飛び込むことにした。
盆踊りで踊るのなんて小学生以来だ。
適当にうまい人を見つけては、その人を勝手に師匠として真似しながらカーキンキン。基本的な踊りは10秒ちょっとが1セットなので、輪を一周するころにはなんとなく形になってくる。オリジナルのアレンジなんて加えなくても、覚えきれない足の運びとかは、踊るたびにオリジナルだ。
毎年来ているという友人(オカダタカオ)は、千葉県民なのに堂々としたもの。
私と同じく今日が初めてという友人も何人かいたのだが、「青森のねぶたみたいだ」とか「エアロビっぽいよね」とか「リオのカーニバルを思い出した」などと好き勝手な感想を述べていた。しかし共通しているのは「楽しい!」という部分。
熱気あふれるステージが俺を踊らせるぜ。
祭りでの踊りというと、どうしても地元の人しか参加できないとか、踊り方をしらないと恥をかくというイメージがあったが、この祭りは一人でもぷらっと参加できるし、初めてでも踊り方はまあどうにでもなる(うまい人はやっぱりかっこいいけどね)。
素直に来年もこようと思える、素敵なイベントでした。
そういえば提灯を出したのです
ところでステージの提灯に、「玉置豊」と私の名前が書かれていたのがあったのに気がついただろうか。
ほら、「玉置豊」の提灯。
実は数日前、この祭りのオフィシャルサイトを見ていたら、5000円の寄付で提灯1張りが出せるという募集をみつけたので、ついつい応募してしまったのだ。
正直勢いで振り込んでから、「5000円は高かったかな?」と思ったりもしたのだが、会場に飾られた提灯を見て、「いい買い物だったな」と思い直した。
自分の名前が書かれた提灯の前でおこなわれる演奏を見ながら飲むビール、これがまずいわけがない。もうある意味、「俺が用意したステージ」といえるだろう。小菊ちゃんがもっと有名になったら、「新人だった小菊を俺がステージに立たせてやったんだ」と言い張ることもできるのだ。いやどうだろう。
友人に「なんで提灯に名前が書かれているんだよ!」と聞かれるのがまた楽しい。
これがF1とかプロ野球だったら何千万だけど、盆踊りだったら5000円でスポンサー気分が味わえる。広告としての効果は置いておいて、提灯ひとつを出しただけで、なんだか今日集まったお客さんに一杯おごったような気分になれました。
そういえば「名前間違えて書いちゃったからあげる」と、この提灯をもらいました。
私に紅白歌合戦の出場者を選ぶ権利があったら、絶対に小菊ちゃんをオープニングで使うね。