私的標本:捕まえて食べる

玉置標本によるブログ『私的標本』です。 捕まえて食べたり、お出かけをしたり、やらなくても困らない挑戦などの記録。

石川県金沢市にだけ生息している外来種?スジアカクマゼミを採って食べる観察会

※『地球のココロ』というクローズしたサイトで、2014年9月11日に掲載した記事の転載です。

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日本中で石川県金沢市の一部にだけ発生しているスジアカクマゼミを採取して、地元の方々と食べてしまおうという観察会に参加してきた。

なぜか金沢にだけ生息しているスジアカクマゼミ

アブラゼミ、ミンミンゼミ、ツクツクボウシなど、日本には様々なセミが生息しているが、日本中で石川県金沢市の一部だけ(大場町に多いらしい)で確認されているという超レアなセミをご存じだろうか。私はまったく知らなかったのだが、その名を「スジアカクマゼミ」というらしい。

そんなスジアカクマゼミの成虫と幼虫を、石川県ふれあい昆虫館の福富宏和さん指導のもとに採取して、さらに昆虫料理研究会のムシモアゼルギリコさん指導で調理して試食するという、一挙両得&一石二鳥、あるいは一長一短&一喜一憂の『外来種スジアカクマゼミを採って食べる「セミ会」in 金沢』がおこなわれた。

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アミとムシカゴを持って金沢までやってきました。

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右がセミ採取指導の石川県ふれあい昆虫館・福富宏和さん。左がセミ料理指導:昆虫料理研究会・ムシモアゼルギリコさん。

福富さんの説明によると、スジアカクマゼミとは朝鮮半島や中国、台湾、ベトナムなどに生息するセミで、日本では2001年6月にはじめて金沢競馬場付近で鳴き声が観測されたそうだ。

スジアカクマゼミの鳴き声はジージージーととてもうるさいので、その鳴き声を知っている人が聞けば、すぐに「あ!」と思うことだろう。鳴き声はこちらにアップしました

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セミを捕まえて食べるために、多くの人が県内外から集まりました。

そんなスジアカクマゼミの発生確認から14年が経つものの、未だ他の地域では発見されていない。そのため海外からやってきた外来種であると考えらえれているが、侵入経路が判明していないこともあり、外来種と断定するには早いという意見もあるのだとか。もしかしたら日本に昔からいるにもかかわらず、その存在が認識されていなかったという可能性も捨てきれないのだ。

現時点ではちょっと鳴き声がうるさいくらいだが、今後は生態系や農作物に対してなんらかの影響がでてくる可能性もあるので、このセミをここから広げないことが現時点では大切なポイントとなる。しかし、このセミの存在は地元金沢でもほとんど知られていない。そこで分布が急速に拡大して何らかの影響が出る前に、多くの人がスジアカクマゼミの存在を知り、その発生状況に注目しておく必要があるのだ。

そんな訳で観察会が開かれているのだが、今回は新しい取り組みとして「昆虫食」という観点からもスジアカクマゼミを取り上げるというのが大きな特徴である。捕まえたスジアカクマゼミを食べちゃうのだ。

個人的には小学生のころ、セミを採ろうとして犬のウンコ(柔らかめ)を踏んでしまい、さらにセミにオシッコを掛けられるというふんだりけったりの辱めを受けたり、羽化したばかりのセミを指にとめていたら、木だと思ったのか固いくちばしを刺されたりした苦い思い出があり、セミ採りに対して積極的ではなかったのだが、そこに「外来種」、「食べる」というキーワードが加わることで、それならばと金沢まで来た次第である。

まずはセミの成虫を捕まえる

集合時間は15時50分。まずはセミの鳴き声を頼りにした成虫探しからスタート。本命はここにしかいないスジアカクマゼミだが、比較のためにアブラゼミなども採取する。

そして日が暮れてきたところで、羽化のために地上へ出てきた幼虫を捕まえるという二段構えの段取りだ。

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会場は金沢競馬場の近くにある柳瀬川つつみ公園。

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この長さだと、虫屋としてまだまだ本気の網ではないそうです。

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サクっと本命のスジアカクマゼミをゲットする福富さん。

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羽根の線(翅脈)が赤褐色であることからスジアカクマゼミという和名なのだが、海外のものに比べて日本産は色が薄いそうです。もしかしたら微妙に別の種なのかも。

さて実際にセミ採りをしてみると、これがとても面白く、大人の趣味としても成り立ちそうなゲーム性を持っている。そして普段ならセミをとっても使い道がないのだが、今回は「食べる」という明確な目標があるために力が入る。居酒屋でセミの天麩羅とかがメニューにあっても、あまり頼もうとは思わないが、自分で採って食べるとなると、急に興味が沸くものなのだ。

セミくらいいくらでも捕まえられるだろうと楽観的に考えていたのだが、これがなかなか難しかった。東京や千葉で何度もこのようなセミ会を開いてきたギリコさんによると、スジアカクマゼミは相当捕まえにくいセミなのだとか。 このセミは高いところに止まっていることが多く、また保護色が見事で見つけることが困難。さらにヤナギのように枝が細くわかれている木が好きなようで、なかなか網が届かないのである。

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鳴き声はすれども、見つかるのは抜け殻ばかり。

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昆虫って幼虫と成虫の姿がまったく違うのが不思議ですね。

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また抜け殻かと思ったら、動いてる!

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や、やあ。いそいでるところ、ごめんな。

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かっこいい蝶も載せておこう。

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このどこかからジージージーという鳴き声が聞こえてきます。

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どうにか見つけた!高い!保護色!捕まえられない!

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スジアカクマゼミはアマチュアレベルの網だと届かない場所にいるんですよね。

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それに対して凄い低いところにも止まっているアブラゼミ。そんなことでは生息範囲を奪われますよ。

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アブラゼミよ、それの汁はおいしくなかろうに。

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本日初めてとなるセミキャッチは当然アブラゼミ。

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セミをまじまじとみるのなんて久しぶりですが、アブラゼミは筋が緑なんですね。

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写真はどうにか撮れるのだが、なかなかスジアカは獲れないのよ。

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どうもヤナギの木がお気に入りみたいです。枝が多くて捕獲が難しい。

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検討の結果、参加者と私の網とくっつけて長くしてみました。これでアマチュア用ネットからセミプロ用ネットに昇格したはず。セミだけに。

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力をあわせてどうにかゲット!

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クマゼミの名にふさわしいドッシリトしたフォルム!やっぱり筋はそんなに赤くないですね。

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セミの裏側って怖ーい。

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ここにもセミがいるんだけど、わかりますかね。

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はい、ニイニイゼミでした。小さくてかわいいけれど、食材としてはボリューム不足かな(セミを食材として考える日が来るとは)。

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あれは!アマガエル!ちなみにアマガエルの皮膚には毒があるそうですよ。

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おっと、また幼虫を発見。もしスジアカを駆除する必要がでてしまったら、幼虫から成虫になる段階にトラップとかを仕掛けるといいかも。

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そしてかっこいいサギの群れ。

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君はギリコさんに食べられる前に逃げて!(クワガタはえこひいきします)

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みんなが採ったセミを手慣れた手つきで洗濯ネットに入れていくギリコさん。

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前半戦は成虫2匹、幼虫3匹という惨敗でした。

幼虫は簡単に捕まります

幼虫捕獲の後半戦に入る前に、福富さんから見分け方のアドバイス。一見すると素人には区別のつかないスジアカクマゼミとアブラゼミの幼虫だが、お腹の中央にヘソみたいな突起があるのはクマゼミの仲間だそうで、このあたりは普通のクマゼミがいないため、スジアカクマゼミということになる。

これは抜け殻を観察してもわかるので、抜け殻の数を調べてみれば、その場所におけるセミの勢力図もわかる。

セミの幼虫は夕方から夜に掛けて、天敵となる鳥などが活動しなくなる時間に地上へと上がってくるのだが、この日はほとんどがアブラゼミの幼虫だった。これは時間帯や時期がアブラゼミの羽化に適していたからだろう。たぶん時間帯はもう少し遅く、時期はもう少し早いのがスジアカにはベスト。これは本気で捕まえようとして初めてわかる特性である。

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 上がアブラゼミ、下がスジアカクマゼミの抜け殻。

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 お、突起物のある幼虫を発見!スジアカクマゼミだ!

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これは突起がないからアブラゼミかな。

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木のウロに住む絵本のようなカエル。

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幼虫はウカウカしていると羽化をはじめてしまいます。

スジアカクマゼミはちょっぴりビターな大人向けの味

セミの捕獲を通じてしっかりと観察したところで、場所を移動してお待ちかねの試食会だ。こういう昆虫料理の会は施設を管理する側がいやがることも多いらしいが、大場町の方々は会の趣旨を理解した上で素敵な場所を快く提供し、さらに料理や試食にも参加していただけたのである。石川県民に対する好感度が急上昇しっぱなし。

地域の人と一緒にできたことで、この会を開いた意味が何倍にもなったと思う。そして採取と観察だけではなく、そこに「昆虫食」という若干強引とも思える要素が加わったことで、スジアカクマゼミの存在が参加者の記憶に強く残ったし、地元の新聞などにも取り上げていただいたようだ。

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地元の方々と一緒に大場町コミュニティセンターをお借りしての試食会。これぞ地域密着系セミ会!

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野菜と並んだセミの幼虫。なんとなく東南アジアっぽいですが、そんなに違和感ないかも。

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めんつゆで煮たセミの幼虫を燻製にしたものが、ギリコさんのおすすめセミ料理だとか。

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ナッツみたいでおいしそう!って思う人もいるはず!

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こちらは幼虫の素揚げ。まあエビみたいなものですよ。慣れればですが。

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その姿を衣でおおえば、正体不明の覆面天麩羅に!

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こちらは成虫の素揚げ。生きたまま揚げるのは危険なので、一度茹でてよく水気を拭いてから揚げるそうです。知らなくてもいい雑学。

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天ぷら、素揚げ、燻製の豪華なセミディナーが完成。

さて肝心のスジアカクマゼミの味だが、アブラゼミに比べると、少し独特の苦みがあって、ちょっとビターな大人味というところだろうか。この味がクセになるという人もいるし、ちょっと苦手という人もいるようだ。カカオ率の高いチョコのようでもある。

もしかしたらこのスジアカクマゼミが持つ独特の苦みを鳥などが嫌い、アブラゼミなどの在来種よりも生き残る確率が高いかもしれない。これは食べてみて初めて分かる調査結果である。

スジアカクマゼミの味がどうこうという以前の話になるのだが、セミは食べてみると意外なほどに普通の食材で、世界を見渡せば食べる地域がけっこうあるという話も頷ける。

私としては、買ってまで食べようとは思わないが、自分の手で捕まえて食べるのならありかなという感じ。もちろん食べる人を否定したりするようなものではない。

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皆さん積極的に箸を伸ばし、セミの味を確かめていました。

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セミとビール、夏の新定番になるかもね。

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こちらは参加者が持参したかわいい虫クッキー。

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最後はセミの幼虫ポーズで記念撮影。

このように大成功で終わったこの会は、スジアカクマゼミの定期的な観測という意味も込めて、毎年開催されるのではないだろうか。私もできることならまた来てみたい。金沢市はいいところだし。

 

【参考サイト】
石川県ふれあい昆虫館
昆虫料理研究会
昆虫食ポータルサイト 「むしくい」

 

 

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