床屋日記の続きです。
鏡を見たら浮浪者感がすごかったので、久しぶりに床屋に行った。
前回の日記が8/1で、9/25、11/13ときての2/2。
感覚が二か月弱、二か月弱ときての、三か月弱。
ちょっと間が空いた。
人に会う用事がまったくなく、髪を切る気にも、髭を剃る気にもならない日々だ。
そういえば前回の非常事態宣言中に髪を切ったとき、ものすごく緊張した覚えがある。だが今回は緊張感が薄い。
前回が緊張の力でパンパンに膨れ上がった風船だとしたら、今回は緊張すべき強さは同じでも、受け止める側の風船の大きさに余裕ができて(ゴムが伸びて)、まだ余裕のあるフニャフニャした感じ。そこまで張りつめてはいない。
それがいいのか悪いのか。
どっちにしても割れるときは割れるのだが。
二回ほど床屋日記を飛ばしたのは、書くのを忘れたからで、深い意味はない。
8月から担当は、毎回同じで『C-C-B(ココナッツボーイズ)のメンバー全員を足して人数で割って、服も髪も真っ黒にして今風にしたオールバックのメガネ男子』さん。長いので以下、CCBさん。
カットが税込み1650円で指名料の掛からない店なのだが、一応受付で「ご氏名はありますか?」と聞かれる。そこで「特にないです」というと、前回の担当がいればその人がやる流れっぽい。
で、今日は受付の段階で、CCBさんだった。
C:「お久しぶりですね。ご指名は?」
おっと、認識をされている。さすが客商売。いや持参した店のカードに日付と担当者が書かれているからかな。
ここで本人を前に「特にないです」というほど野暮じゃない。
……いや正直に書こう。
この店で私の髪を切ってくれるのはCCBさんが3人目くらいなのだが、この人が一番うまいなと思っていた。またこの人だといいなと願っていた。指名をするのはちょっと恥ずかしいが、この人であって欲しかった。その人から、指名は誰かと聞かれたのだ。
私:「……貴方でお願いします」
あー、恥ずかしい。
これは告白なんじゃないだろうか。大丈夫か。
恋の予感、きゃー。
バーバーというかBLだ。
なんて思って一人で赤面してどうする。
はい、大人しくカットされます。
注文は特にないので、前回切ったときと同じくらいにしていただく。
今風にいうと「髪を戻そう」だろうか。いわない。
C:「髭を伸ばしたんですね」
私:「いや、剃るのが面倒なだけで、ほらマスクだし……」
髭はともかく伸びた髪は三か月弱分となるので、ザクザクとたくさん切られる。
切られながら、やっぱりこの人が次もいいなと思う。
これまではたまたま3回連続、この人がいてくれた。
これは運命か。いや偶然だ。
運命の再開じゃない。偶然の散髪だ。
次はどうなるかわからない。
このひとのシフトを知りたい。
そうだ、聞こう。
切られている途中で聞くのは、自然な流れだろう。
聞かれて嬉しくない人もいないはず。
これぞ遠回しな誉め言葉。
でもやっぱり恥ずかしいな。
誉め言葉だと認識すると、さらに恥ずかしい。
ちなみに最近恥ずかしがってできないのは、瓶ビールを買ったスーパーで瓶の引き取りをしてもらえるかの確認だ。なんだか5円を惜しんでいるみたいで。いやそうなんだけど。素直に聞けばいいんだけどね。
さてどうしよう。聞こうかな。でもこれまで私が来た日の曜日を確認すれば(ショップのカードで確認できる)、ある程度傾向がわかるか。
いやでもそれは過去の話。今はシフトが変わっているかもしれない。
もちろんCCBさんがいるかを、わざわざ店に電話で確認するなんて絶対無理だ。
確認せずに来てCCBさんがいなくて、もし別の人に切ってもらったら、その次は誰に切ってもらうのが正解なのか。その人に切ってもらうのはCCBさんに申し訳なくないか。CCBさんに戻したら切ってくれた人に悪くないか。なんだこの悩み、ここはホストクラブか。お店の人はいちいち気にしないと思うけど。
モジモジ。
モジモジモジ。
モジモジモジモジ。
二万モジくらいしたところで、声をひっくり返しながら、ようやく聞くことができた。
私:「しゅ、出勤の曜日って決まっているんですか?」
C:「シフト、結構グチャグチャなんですよ~」
あー。無駄だった……
なんだこのデートの誘いを流された感じは。
C:「でも火曜日は託児所がやっていないので、(同僚は子供がいる女性が多いため)休む人が多いから、だいたい出ています」
いかん、顔がちょっとニヤけてしまった。
鏡越しに見られていたらどうしよう。
だめだ、手玉に取られている気分だ。
そういえば今日は火曜日か、じゃあ次もさりげなく火曜日に来ようかな。
しかしこの質問がよくなかった。
会話をするべき客と判断されてしまったのだ。
C:「仕事は平日休みなんですか?」
あー、自分のことを聞かれると目が泳ぐ。
泳ぐというか、策に溺れる。ブクブクブク。
私:「ざ、在宅勤務です」
C:「在宅と出勤、どっちがいいですか?」
私:「ざ、在宅です」
今更いえない、ここ15年くらい在宅のフリーライターだなんて。
C:「オンライン飲み会とかしました?」
私:「一、二回くらい」
私の回答がモゴモゴしているので、この人は会話をしない方がいい人だと判断していただいたらしく、質問はここで終わった。
きっと次回は最小限の会話で髪を切ってくれることだろう。
肉を切らせて骨を切るだ。
店内には嵐の曲が流れていた。
グループは解散しても曲は残るのだなと思った。
嵐の大野さんは釣りに行っているのだろうか。
髪を切り終わると、鏡の前に毛艶の悪い三毛猫がいた。
私は白髪が多く(半分くらい)、全体を茶色く染めているのだが、前回染めたのはだいぶ前。
そのため散髪して頭に残った毛は、茶色く染めたの残り、そして後から生えてきた白髪と黒髪。
茶と白と黒で、見事に三色の三毛猫なのだ。
いや本当に三毛猫。キジ三毛というやつだ。
この髪型で日光東照宮にいったら写真を撮られると思う。
どうしよう、帰ってビゲンヘアカラーで染めるべきか、三毛猫として生きるべきか。
C:「だいぶヘアカラーの色が落ちていますね」
といわれて
私:「三毛猫になった気分です」
と返す勇気はなかった。
そして「アイロン入れていきますね!」と、いつものように私の天然パーマをヘアアイロンで引っ張って伸ばす。どうしても伸ばしたいのだろう。
最後に「セットしますか?」と聞かれたので、この後は特に予定はなかったけれど、せっかくなのでセットをしてもらった。
ワックス的なもので髪をゴニョゴニョして前方向に流れを作り、上からスプレーをシュー。
高校時代以来嗅いでいなかった、ヘアスプレー独特の香りに包まれた。
いやヴィジュアルバンドをやっていた頃以来かな。
セットしてもらった髪型は、無理やり風呂に入れられて怒っている三毛猫みたいでかっこいい。
今度はどこか出掛ける前に、この床屋に来ようと思う。
火曜日の午後になにか予定を入れなくては。
※ちょっと買い物しませんか※
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