※『地球のココロ』というクローズしたサイトで、2012年6月18日に掲載した記事の転載です。
憧れていた鰹節削り器を購入したので、築地の鰹節屋にて削り方を習ってきました。
ある日、鰹節削り器が届いた
よく晴れたある日の午後、宅急便で素敵な木箱が届いた。小物入れではない。昔から憧れていた、鰹節削り器である。
さも誰かが贈ってくれたように書いてみたが、夜中に酔った勢いを借りて、ネットで自ら注文したものだ。
とうとう買ってしまいました。
最近、友人が立て続けに購入するというプチ鰹節削りブームが到来しており、うらやましかったのである。
さて、勢いで鰹節削り器を購入したのはいいのだが(いいのだろうか)、さすがは酔っ払いの注文だけあって、肝心の鰹節を一緒に頼んでいなかった。このままでは小物入れにしかならない。
そこで、店頭で鰹節の削り方を指導してくれるという、築地場外市場にある鰹節屋の伏高さんへとやってきた。友人の話によると、主に食のプロを相手にする仲卸なのだが、素人相手に無料で指導をしてくれるお店らしい。
鰹節削り器を買っておいてなんなのだが、実は今までに一度も削ったことがないので、渡りに船の店である。
「真っ当な食材」をモットーにしている伏高さん。
私は自前の鰹節削り器を持参したけれど、手ぶらでもOK。
ちなみに内側はこうなっている。木を削るカンナと似てますね。
鰹節の種類
伏高さんで塊のまま売られている鰹節は、何度もカビ付けをおこなった本枯れ節と呼ばれるもの。見た目はまるっきり材木である。
カビ付けをされていないものは荒節といい、ほかにもマグロを使ったマグロ節、サバを使ったサバ節などもあるが、このあたりの説明は長くなるのでまた今度。というか、説明できるほど詳しくない。
原材料、産地、部位などによっていろいろあります。
カツオの刺身がそうであるように、鰹節にも背側と腹側がある。背側は背節、あるいは雄節(男節)と呼ばれ、腹側は腹節で、雌節(女節)。
オスのカツオだから雄節という話ではないらしい。
上が背節、下が腹節。頭は右側。
背側は脂肪分が少ないので上品な味となり、腹側は脂が乗ってコクのある味となるそうだが、その違いに気がつく自信はまったくない。
1匹のカツオから、こんな風に4本の鰹節がとれる。
小型のカツオの場合、背と腹に分けない。これは亀節と呼ばれるそうだ。
鰹節を削るフォーム
削り方は、鰹節の頭側を手前にして、右手でしっかりとつかんで、下に押しながら前へ出す感じ。鰹節は世界で一番固いといわれている食べ物。スライサーでキュウリを切るのとはわけが違う。この基本姿勢を最初に習えて幸運だった。
まずは構え方を覚えます。
反対側から。手前が台尻、奥が台頭と呼びます。
大切なカンナの調整方法
さて鰹節削り器を使うに当たって、肝心なのがカンナの調整。削るための刃は新聞紙1枚分、約0.1ミリだけ出すのだが、この調整がうまくできていないと、誰がやっても上手に鰹節は削れない。
試しに私が持ってきた鰹節削り器でやってみてもらったところ、削った鰹節が健筆の削りカスのように丸まった。血合い部分がリアルである。これはちょっと刃が出過ぎている証拠。
鉛筆の削りカスみたいだ。外国人ならこれが食べられるとは思わないだろうな。
刃をひっこめるには、台頭と呼ばれるカンナの奥側を木槌で軽く叩き、刃を出すには台尻の手前側(刃が向いている方)を叩く。
この調整はとても微妙なものなので、何度も叩いては削っての作業を繰り返すしかないのだが、一度ビシっと決めれば、そうずれるものではないそうだ。やはり習いに来てよかった。
台頭を叩いて、微妙に刃を戻す。
これだと、さすがにちょっと薄過ぎるか。
このくらいがベストとのこと。ものすごく微妙!
鰹節削り器にはどうしても個体差があって、刃が左右均等に出るものと、どっちかに偏って出がちなものがあるそうで、私の削り器は変なクセのないアタリの商品だと褒められた。こういうのって嬉しい。大切に使おう。
ちなみに伏高さんでも鰹節削り器は扱っているので、何を買ったらいいのかわからなければ、相談してみるといいかもしれません。
鰹節を削ってみる
調整をしてもらったマイ鰹節削り器を使って、さっそく私も削らせていただいた。右手で鰹節をしっかりと押さえて、左手は上に添える感じだろうか。指や手のひらを削ってしまいそうでちょっと怖い。
体重を掛けて押し込むように鰹節の断面を滑らせると、シュイっという乾いた気持ちのいい音がした。押しては戻すを繰り返せば、シュイシュイシュイと、自分でやっているとは思えないプロっぽい音がする。
なんだこれ、楽しいぞ。鰹節と一緒に溜まっていたストレスも削れていく気分。心を落ち着かせるのに最適。鰹節セラピーが今年は流行るな。
硯で墨をするような気分ですが、けっこう力がいりますよ。
引きだしを開けてみると、そこには見事に薄く削られた鰹節。自分で削った分だけ手に入る達成感が素敵。
俺って鰹節を削る才能があったのかと自分に驚いたのだが、これは削り器の調整がちゃんとしているからですね。
初挑戦にしては、いいんじゃないでしょうか。
削った鰹節を試食させていただいたところ、これだけで御飯が食べられそうなうまさだった(ネコマンマだ)。鰹節というとダシをとるためのものというイメージが強いけれど、このままどんどん料理に使いたくなる味。
マイ鰹節の面をつくる
鰹節を削るのが、こんなに楽しいとは知らなかった。この喜びを家でも体験できるようにと、さっそく背節を1本購入。腹節ではなく背節にしたのは、味うんぬんの違いよりも、背節の方が大きいので持ちやすいからだ。
値段はキロあたり5,000円となかなかのものだが、1本の重さが背節で300グラム前後なので、だいたい1,500円くらい。一度に使う量を考えれば、特別高い食材というものではないようだ。
新品の鰹節は、削るための面がないので、まず面をつくる必要があるので、その方法も教えていただいた。
頭側を手前にして、二点のでっぱりを当てて、このままの角度で削っていく。腹節は少し形が違うけれど、理屈は一緒。
上が腹節との断面側になるように持ち、この角度で削っていく。
カリカリカリと削っていくと、琥珀をもっと濃くしたような、これが魚だったとは思えない艶のある断面が見えてくる。日本が誇る、文句なくかっこいい食べものだ。
最初はこの面が小さいので削った鰹節も小さいが、使っていくうちに断面も広がり、一度に大きく削れていくようになる。これを1本使い切ったら、なかなかの達成感が味わえそうだ。
一番上が面をつけたばかりのマイ鰹節。使っていくと、下のように形が変わっていく。
「よし、今日からは毎日の料理に自分で削った鰹節のダシを使おう!」と張りきったのだが、ダシに使う鰹節は、昆布との合わせダシでも水1リットルあたり30~50グラムとのこと。
いくら鰹節を削るのが楽しいとはいえ、慣れる前に手首が腱鞘炎になりそうだ。無理無理。
30グラムでこの量ですよ。
とりあえずは、料理に掛けてそのまま食べるものや、気合いを入れたいときのダシ用にだけ削るとして、毎日の味噌汁などはパックの削り節や顆粒だしなどを使おうと思う。
自分で調整してみたら、刃が出過ぎた。繊細!
ちゃんとした鰹節をたっぷりと掛けると、料理が一気にグレードアップしますね。
台所に物が増えていくのはどうかなと思うのだけれど、3歳になった子供が一緒に削った鰹節を喜んで食べるので、買ってよかったなと思う。
生ハムと鰹節でパーティーやりたい。
トーストしたバケットに、削りたての生ハムと鰹節という贅沢。
【参考サイト】
築地仲卸 伏高