※『地球のココロ』というクローズしたサイトで、2014年4月14日に掲載した記事の転載です。
水産庁でおこなわれた「第1回 資源管理のあり方検討会」を傍聴してきた。
「第1回 資源管理のあり方検討会」を傍聴してみよう
平成26年3月24日に水産庁において、水産庁職員および大学の教授・准教授、各県の水産担当職員、漁業協同組合の代表などから構成される資源管理のあり方検討会委員(名簿はこちら)による、「第1回 資源管理のあり方検討会」が行われた。
日本における危機的な漁業資源の話については、以前このサイトで三重大学生物資源学部の勝川俊雄准教授に伺ったことがあるが)、その勝川さんが今回の委員に入っているようだ。
農林水産省お魚大使のさかなクンがこのメンバーに入っていないのが個人的に残念なのだが、この会は事前に申請をすれば傍聴可能ということなので、どのような議論がされているのかを聞きに行ってみることにした。
霞が関における会議の傍聴なんて、もちろん初めての経験である。
傍聴希望者が多く、広い部屋に変わったそうです
なんだかドキドキします
手前が三重大学生物資源学部の勝川俊雄准教授
水産資源量に対する水産庁の認識とは
さてまずこの会の概要についてだが、事前に告知されたプレスリリースには以下のように書かれていた。
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水産資源の適切な保存管理は、国民に対する水産物の安定供給の確保や水産業の健全な発展の基盤となる極めて重要なものです。
しかし、かつて1千万トンを超える水準にあった我が国の漁業生産は、現在は500万トンを下回る水準となっています。こうした状況の中で、水産日本の復活を果たすためには、世界三大漁場と言われる恵まれた漁場環境を活かしながら、水産資源の適切な管理を通じて、水産資源の回復と漁業生産量の維持増大を実現することが喫緊の課題となっています。
このため、現在の水産資源の状況を踏まえ、資源管理施策について検証するとともに、今後の資源管理のあり方について幅広い意見を聞くため、本検討会を開催するものです。
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ここでいう「かつて」とは、当日配布された資料によると昭和60年前後の話なので、僅か30年で半分以下になってしまった日本の漁業生産を踏まえて、今後の水産資源の適切な管理施策を検討するための会ということのようだ。
今回の会議資料は農林水産省のホームページで公開されるので、誰でも見ることができる。
『水産資源の状況及び資源管理施策の現状について:漁業・養殖業の国内生産』より抜粋
グラフを見る限りは、どう見ても下り坂だ。しかしである。会の冒頭にあった水産庁次長からの話の中には、以下のような内容が含まれていた。
「我が国周辺の水産資源の水準は、全体的にはおおむね安定的に推移していると言えるが、低位に留まっている資源や、悪化している資源もある。このような資源を持続的に利用していくためには、どのような資源管理措置が適当であるのか早急に検討する必要がある。」
どうも日本の水産資源は全体的にみれば安定しているので、悪化している一部の資源を管理すれば大丈夫であるという認識のようだ。この時点で、ちょっとこの会の雲行きが怪しいように感じてしまった。
水産資源量の推移
平成25年度における主要な52魚種84系群の資源量について、過去20年以上にわたる資源量や漁獲量の推移から「高位・中位・低位」の3段階で区分した水準によると、高位が14.3%、中位が42.9%、低位が42.9%となっているが、近年は太平洋のマサバなど低位の割合が減少し、中位の割合が増加傾向だと資料にはある。
『水産資源の状況及び資源管理施策の現状について:我が国周辺水域の水産資源の状況』より抜粋
『水産資源の状況及び資源管理施策の現状について:太平洋マサバ資源について』より抜粋
マサバがここ数年回復傾向なのはもちろん喜ばしいことなのだが、もう少し長い時間軸で見て、ちゃんと魚が獲れていた頃と比べてみると、実はまだまだ比べ物にならないほど低い水準だったりする。
勝川さんのブログより、マサバ太平洋系群の資源量。『水産分野の事業仕分けについて、専門家の視点から分析してみる』より抜粋
勝川さんから「水産庁では日本の水産資源の状態は全体としてそれほど悪くないという認識でいいのか?」という質問があったが、それに対する水産庁の回答は「全体としては比較的安定しているのではと考えている。ただ一部には資源的に問題がある。」というものだった。
低位が42.9%でも比較的安定しているという認識であるのならば、この会はなんのために行われているのかという話になってしまうのだが、水産庁としてはどうしても水産資源が減っているという認識を持ちたくないように思えてしまう。
平成23年に発表された水産庁がおこなった漁業者モニターに対する「 我が国周辺海域の水産資源の状況の認識について」という調査によると、87.9%が減っていると答え、増えていると答えたのは0.6%である。
『食料・農業・農村及び水産資源の持続的利用に関する意識・意向調査』より抜粋
この結果を「あくまで漁師の感覚的なもの」と無視してしまっていいのだろうか。どうやら水産庁の認識と漁業の現場の認識には、マリアナ海峡よりも深い大きな隔たりがあるようだ。
現在の資源管理のための規制について
漁獲可能量(TAC)を事前に決めて、総量を制限する制度が7つの魚種で導入されてはいるが、たとえば水産庁のサイトから見つけた『漁獲可能量(TAC)と採捕実績の推移』を見てみると、平成24年漁期は漁獲可能量455,000トンに対して、採捕実績が221,491となっており、捕れた量の倍以上がTACによる上限となっているため、まったく規制の意味がない。また平成19年漁期においては、漁獲可能量が当初286,000トンだったのが、豊漁だったのか7月に316,000トンへと改定され、さらに11月には396,000トンとなり、最終的には301,449トンの漁獲量となっている。
このTACの改定はほとんどの魚種でおこなわれている。資源保護が目的なのであれば、予想よりも不漁なので漁獲可能量を減らすというのはわかるが、豊漁だったらどんどん漁獲可能量を増やそうというのでは、規制とはいえないのではないだろうか。
『漁獲可能量(TAC)と採捕実績の推移(単位:トン)』より抜粋
好きなだけ捕ってもよいという現行の制度のままであれば、漁師はそこに魚がいれば、市場価値の低い未成魚や旬ではないものでも捕ってしまうだろう。目の前にいる1匹10円の魚が、1年後には100円になるとわかっていても、その魚がまた自分の前に現れるとは限らないのだから、捕ってしまうのは当然だと思う。これは制度の問題であって、漁師にモラルを押し付けて解決するものではない。
漁師による自主的な規制に頼るのではなく、上の立場から公平な目で規制ができる水産庁が音頭をとって、本当に捕っても大丈夫な量や大きさ、あるいは時期を決めなければいけないだろう。もちろんその調整に必要な作業は、ちょっと考えただけでもすごくすごく大変なのだとは思うけれど(外部の人間なので簡単に言いますが)。
またこの会議で議題に上がるのは、すでに魚が減っている20年前からの推移であり、漁を始める前の未開発状態との比較が行われないという点についても、勝川さんから異議が唱えられた。ここ20年での資源量の推移ももちろん検討するためのデータとして大切だが、絶対的な総量に対する現在の状況がどうなのかという視点も、確かに加えるべきだろう。そんなの正確にはわからないからと検討しないことは簡単で、なんらかの数字を出して議題にあげることは大変な作業であってもだ(やっぱり簡単に言わせてもらいましたが)。
多くの漁師が「生業」として成り立っていない現状の漁業を維持するためのデータだけではなく、世界三大漁場と言われる日本の漁場が元々持っていたポテンシャルを示したデータを意識することで、今後の資源管理における方針も大きく変わってくるのではないだろうか。
次回の会議は4月18日(金曜日)
この会は今年の6月中旬までに全5回が予定されている。先に結論となる話ができあがっているのでもなければ、議論をするには少なすぎる回数と短すぎる期間だとは思うけれど、今後の会議の過程においては、資源管理の主体となって取り組む現場の漁業関係者の意見も十分に聞いていくそうだ。
それによって、水産庁における水産資源量の認識や、現状の規制に対する評価に、なんらかの見直しがおこなわれるかもしれない。
次回の会議は4月18日(金曜日)。傍聴の申込み締切は4月15日(火曜日)18時00分。そのプレスリリースはこちら。
ちょっと難しい話が多いけれど、実際に傍聴することで何らかの「温度差」を感じることはできると思う。そして多くの人が「健全な外圧」として傍聴に参加することは、この問題に興味のある人間がこれだけいるんだよというアピールにもつながるのではないだろうか。
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