私的標本:捕まえて食べる

玉置標本によるブログ『私的標本』です。 捕まえて食べたり、お出かけをしたり、やらなくても困らない挑戦などの記録。

佐渡島のクラファン「矢島に建てられた明治時代の農林大臣の別荘を100年後も残したい」について思うこと

夏に佐渡島を訪れたときの話

佐渡島に住んでいる友人の田中藍さんが、「すごい別荘があるんだよね~」と案内してくれた。

佐渡南部の小木にある建物で、佐渡市真野新町出身で台湾製糖会社の社長、そして農林大臣を務めた山本悌二郎(1870~1937、詳しくはwikiをどうぞ)の別荘だった。

正直なところ、山本さんのことはまったく知らなかったが、この別荘の存在はうっすら認識していた。

たらい船に乗れる矢島・経島の奥に、何やら古そうな建物があるのを前に見たことがあるのだ。あれって個人の別荘だったのか。なんと1911年の建造物、築112年である。

 

なんやかんやあって、そこの管理を田中さんがやることとなり、100年後にも残すためにクラファンで改修資金を調達することになったそうだ。

へー、すごい。でもそれって超大変なのでは?

■矢島に建てられた明治時代の農林大臣の別荘を100年後も残したい

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これが山本悌二郎の別荘です

矢島・経島は、たらい船乗り場がある港の左側(東側)の遊歩道から、あるいは左側(西側)の海沿いの道から、それぞれ橋で繋がっている。これを矢島経島一周線というそうだ。

※途中に崖崩れの危険があるため、現在はどちら側の道も立ち入り禁止になっています。来春には改修を終えて開通予定らしいけど未定。

 

田中さんに連れられて、遊歩道側から別荘へと向かった。

 

手前が経島、奥が矢島。

 

この橋から先が立ち入り禁止。

今回は管理者立ち合いの元、特別に通過させていただく。

 

別荘の屋根だけ新しいのは、もともとは茅葺屋根だったのだが、雨漏りがひどいために、建物維持のために取り急ぎトタンを被せたから。

「やっぱり茅葺じゃないと……」という人はドーンと募金をしましょう。

 

 

 

明治30年の水害で流れ出た流木をふんだんに使ったと伝わる独特の建物。

この場所は国定公園なので、現在は絶対に建物が作れない場所。取り壊したら二度と作れない。というか、これと同じ建物はどこであっても現在では建てられないと思う。

一見すると山小屋風だが、細部がとてもおもしろい。建築や古いものに詳しい人なら、私以上に感動できると思う。なんでも宮大工が三年掛けて建てたそうで、ロストテクノロジーの塊なのでは。

 

管理人の田中さん

こちらが管理人の田中藍さん。自称、普通の主婦。

普通の主婦はこの建物を管理しようと思いません。

ちなみに私が毎年製麺ワークショップをしていた「ハローブックス」というイベントの実行委員長でもある。普通とはなにか。

 

この山本邸は、国なり県なり市なりがちゃんとお金を出して、修復・保存・観光利用をしっかりするべきだと思うけれど、なかなかそうはならないので、朽ちてしまう前にと田中さんが手を挙げたのだろう。

 

とにかく立地がすごい。海のすぐそば。プライベートビーチが目の前。それを堪能できる開放部の広さよ。

 

奥側から。意外と大きな建物なんですよ。

 

藤の間の景色がすごい

建物の中も見せてもらった。

ここは手前側にある「藤の間」という部屋。

何だこの景色、空間の抜け具合。尊い。

 

ここの床の間が、またすごい。

 

海が近すぎて、お手入れは大変みたいです。

ちなみに普段は雨戸が締まっています。

 

他の部屋も廊下もすごい

奥にある「千鳥の間」なども見せていただいた。

現状でもすごい存在感だが、しっかりと改修することができたら、すごく良い空間になりそうだ。

 

独特すぎる天井。

 

海に沈んでいた時にフナクイムシが穴を空けた木を、あえてそのまま使っているのだろう。これは山本さんの趣味なのかな。一度ここで一緒に飲んでみたかった。

 

別荘の西側もすぐ海。こちらは日本庭園の池みたいになっており、ここに沖から運んできたタイやブリなどの魚を、錦鯉のように放っていたとか。田中角栄もびっくりだ。

ここで釣り堀とか生け簀料理みたいなことをしたのだろうか。超たのしそうである。やりたい。

 

廊下の雰囲気とかも最高なんですよ。

 

天上の竹、二本セットで節が揃っているのがわかるだろうか。

こういうこだわり、みんな大好物なんでしょう。

 

源頼政が「ぬゑ」を退治した矢は矢島の竹で、それが使われているというストーリーも含めて最高。

 

まだまだ改修には時間もお金も掛かりそう。

どこまで手を掛けてあげられるのか。

 

御手洗いは使えないのであしからず。

田中さんとしては、トイレもどうにか使えるようにしたいらしい。

それはいくらかかるんだい?

 

別荘の裏側。

 

矢になった竹の子孫だろうか。

 

お茶会をやった

この別荘はなんに使ったらいいだろうか。クラファンの返礼品をどうしようか。

そんな相談をするために、佐渡在住の友達を集めたお茶会が開かれた。

ちなみに茶葉は、数日前に佐渡の山で田中さんと一緒に摘んできた無農薬栽培の逸品だ。

 

お茶を入れてくれた友人。

 

集まった田中さんの友人達。

世界一贅沢な空間で開かれた井戸端会議。

 

小木の街が海の向こうに見えた。

 

360度ぐるっと撮影してみました。

 

ただお茶をみんなで飲んで、おしゃべりをしただけだったけど、すごく貴重な体験だった。この特別な立地と情景、築百年越えの建物から揺らめく時空を超えた空気感。

お茶会はもちろん、茶道、華道、舞踊、法事、着付け、お見合い、昼寝、撮影、ボードゲーム、線香花火など、なにをしても盛り上がる場所だと思う。利用者側の発想次第で、すごく利用価値が高まりそうだ。

 

クラファンの応援、お願いします

ということで、すごく価値のある歴史的建造物なので、ちゃんとお金を確保して、しっかり修繕をして、きっちり運用できるといいですね。クラファンでなくても、個別にドカっと寄付する個人とか企業があれば田中さんまで。あれなら私も返礼品になんかやります(なにを?)。

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とりあえずの初期費用として、最低800万円かかるとか。

大丈夫なのか、田中さん。

 

追伸:後日、カメラマンの撮影に同行して再び訪れたのですが、地元の方にちょっと話を聞いたところ、数十年前はこの場所が観光地としてにぎわっていて、遠足で訪れたという人も多く、当時は集落の方が山本邸を案内していたそうで、アイスも売っていたとか。

多くの人にとって佐渡島という場所へは遠い道のりであり、一度も行くことのない場所かもしれません。それでも、ここを守ろうとしている人をちょっとでも支援することで、いつか行ける日を夢見ることが、ぐっと楽しくなるかもね。大丈夫、行こうと思えば行けますよ。



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