私的標本:捕まえて食べる

玉置標本によるブログ『私的標本』です。 捕まえて食べたり、お出かけをしたり、やらなくても困らない挑戦などの記録。

田舎暮らしのインタビュー1:塩害と闘ってでも海のそばに住むことを選んだ人

※『地球のココロ』というクローズしたサイトで、2010年5月3日に掲載した記事の転載です。

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いつかは田舎暮らしをしたいと思っているのだが、実際に住んでみたらどうなのだろう。将来の不安を解消するべく、地方に移り住んだ人達の話を聞いてみることにした。第一弾は塩害と戦ってでも海のそばに住むことを選んだ人の話。

キノコが縁で知り合ったカズさんにインタビュー

まず一人目は、以前記事で紹介したキノコ観察会で知り合ったカズさん。知り合ったといっても、その時に会ったきりなので、賞味5分くらいしか話したことのない間柄なのだが、おもしろそうな人だったのでインタビューを申し込んでみたのだ。

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田舎暮らしを絶賛満喫中。

カズさんは兵庫県出身で、高校卒業後すぐにアメリカへ留学。卒業後は帰国してアメリカの雑貨販売などをおこない、裏原宿で店舗経営もしていた。しかし98年にいすみ市に家を購入すると、その店も閉めて生活の拠点をこっちに移し、以来10年以上この地で田舎暮らしを楽しんでいる。現在の仕事はいろいろやっている自営業。

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カズさんが今開発しているのは、地元産イワシを使った完全手作りアンチョビドレッシング。

いすみ市を選んだ理由

---東京から田舎に移ろうと思ったとき、場所の選択肢はいろいろあったと思うのですが、なんでここにしたんですか。

「せっかく田舎にいくんだから、ゴミゴミしたところは嫌なので、湘南とかよりもここかなと。そっちに比べたら土地の値段は十分の一だし。外房の海って、実はアメリカよりもワイルド。いろいろな土地にいったけれど、ここは一発で気にいって、一日で即決。引っ越しをしたときは店もやっていたから、成田から近いここなら倉庫にもできるかなと思って。」

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家からすぐでこの景色。確かにアメリカよりもワイルドかもしれない。

---ここって車で来るとちょっと遠いですけど、特急電車だと東京まで一時間なんですね。

「そう。特急料金を会社が出してくれるようなところなら全然通勤できる。最近は東京から引っ越してきて、こっちから東京に通っている人もすごい増えたよ。」

海の近くは塩害がすごいらしい

---それにしても、またずいぶんと海から近いところを選びましたね。

「このあたりは元々外国人の別荘地。海の見えるところって、風と塩害がすごいから地元の人は住みたがらないの。最初に買ったここの家も、リフォームでいけると思ったんだけど、白アリと塩害で全然だめで、結局お金出して更地にして、新築を建てることになったし。」

---塩害ってそんなにすごいんですか。全然イメージできないのですが。

「この辺は波が高いから特にそうなんだけど、まず車はすぐ錆びてダメになるね。カナヅチとかの鉄製品は一晩外に出しておいたらもう錆びだらけ。テレビのアンテナも、もう三回錆びて落ちたから。」

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この近所にある車も、持ってきた数年前まではきれいだったそうです。塩害すげえ。

---うわあ。海の見えるところに住みたいって思っていたんですけど、かなり覚悟が要りますね。

「風と塩で植物もやられちゃうから、庭に野菜の苗を植えてもすぐ溶けちゃう。これ悲しいよー。でも家の前には食べられる塩に強い草がいくらでも自生しているんだよね。」

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家から道路を挟んだ草むらには、セリ、ミツバ、カンゾウと、食べられる草ばっかり。

---海のそばだと畑ができないっていうのは個人的にはショックな事実です。

「それが嫌で、ちょっと海から離れたところにすぐ引っ越した人もいるよ。ここは一番海岸よりの道路よりもさらに海側の家だから、もう十日に一日は暴風。200メートルくらい内側に入ればだいぶ風も塩害も少なくなるんだけど、家から海を見たときに電線が見えないところっていうこだわりがあったから。結局、なにを選ぶかだよね。」

---確かにここは家から海までの間に人工物がなにもないですね。

「だからこの家、雑誌の撮影なんかに使ってもらったりもするよ。カメラマンとかはその辺のこだわりをわかってくれるから。塩害も風も、そういうのを全部楽しめる人じゃないと住めないね。やっぱり東京からこっちに引っ越してきたけど、イメージとのギャップですぐ売っちゃう人も多いよ。当然虫もいるしね。」

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すぐ近くの山には山菜も生えているけれど、地元の人はあまり採らないそうです。

---洗濯物も外に干せなそうですね。

「風で全部飛んじゃう。『エアコンの効いた部屋から見るワイキキビーチ』よりも、『なにもない無人島でのキャンプ生活』を選ぶような人じゃないと無理。この家を建てるときも、本当は東京のおしゃれな設計事務所とかに頼みたかったけど、塩害に対応した家なんて絶対建てられないから、地元で塩害の知識があるところに頼んだ。これは大正解だったね。それでもやっぱりいろいろ壊れてくるから、もう家の修理が趣味。」

---そうじゃないと住めませんね。海が見えるくらい近いところに住みたいなと漠然と思っていましたが、正直考えを改めました。

田舎暮らしにおける人間関係と気になる生活費

---ところでこっちの人間関係はどうですか。

「すごい良好。このあたりは元々地元の人は住んでいないから、いるのは気さくな、ちょっと変わった人。田舎はいろいろな意味で密だから、こじれるときはこじれるみたいだけど、うちは今のところ問題なし。」

---それはよかったですね。家を建てちゃうともう引っ越せないからそれが心配で。

「同じ千葉でも場所によってはよそ者に厳しいところもあるかもしれないけれど、このエリアはみんな穏やかですごい人がいいから、地元の人にも友達が増えたね。」

---生活にかかるお金って東京とだいぶ違います?

「土地の値段はもちろんだけど、うちは食費が全然かからなくなった。東京にいたときは飲むのが好きだから外食ばっかりですごいお金がかかっていたけど、ここは網を投げれば魚は捕れるし、山を歩けば食べられる草がいっぱいあるから、買うのは米とか醤油くらい。あと酒か。近所の人と捕った魚とパンを物々交換したりして。こっちは外食する機会が少ないしね。」

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捕ってきた魚と摘んできた草の豪華な夕飯をいただきました。

インタビューを終えて思ったこと

ここに移り越してきて、良かった点を聞いてみたら、即答で「全部よかった」という答えが返ってきた。海の見えるリビングや自給自足に近い食生活は確かに羨ましい限りだが、塩害の凄まじさを聞くと、正直よくここに住むなとも思ってしまう。

本人もいっていたが、結局は何を選ぶかの問題だ。カズさんはカズさんの考えでいすみ市という土地を選び、海の近さを最重要視してこの場所を選んだ。

すべてが錆びるし飛んでいくし、野菜も育たない家なのだが、本人はそれを問題にしないくらいここが気に入っているようだ。

私もここが気に入ったので、そのまま一泊させていただくことにした。

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翌朝いただいた手作りのアンチョビと摘んできたクレソンを使った絶品パスタ。クレソンのサラダにはもちろん自家製アンチョビドレッシング。

■カズさんのブログ:房総半島でゆっくりと丁寧に暮らす

 

 

 

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