私的標本:捕まえて食べる

玉置標本によるブログ『私的標本』です。 捕まえて食べたり、お出かけをしたり、やらなくても困らない挑戦などの記録。

新鮮な魚よりもおいしい!熟成された魚のお寿司を食べた

※『地球のココロ』というクローズしたサイトで、2010年11月15日に掲載した記事の転載です。

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イワシやアジは新鮮な方がうまいというイメージがあるかもしれないが、魚は熟成させてこそうまいのだという寿司屋があるというのでいってきた。

アジだって寝かせた方がうまい

「新鮮なアジを、あえて二日間立てた状態で寝かせたものを握る寿司屋があるんだよ」

千葉県のいすみ市に住む友人から聞いたこの言葉。ヒラメなどの白身の魚は絞めてから数日寝かせた方がうまいという話はだいぶ一般的になってきたが、アジである。

その店は鮨処切通といって、店主が東京で修業した江戸前の味と、地元千葉の味をミックスさせた小さな寿司屋だという。

私も自分が釣った魚をよく食べるので、鮮度が大事とされるアジも寝かせた方がうまいのではと思っていた。遠くで同志を見つけた気分である。でも「立てた状態」ってどういうことだろう。

外房まで釣りに行ったついでにちょっと寄ってみたのだが、魚の旨みにこだわる店主が握る寿司は、今まで食べたことのない味だった。

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切通と書いて、きりとおしと読む。変わった店名だなと思ったが、店主の名字そのものだった。

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昼を過ぎた頃にいったので仕込中だった。忙しいところすみません。

三日寝かせたイワシがうまい

この店を教えてくれた友人を誘って店に向かい、とりあえずお任せで握ってもらう。友人の話だと、この店はたくさんのネタを揃えるのではなく、漁師などから店主が自信を持って出せると思って仕入れた魚だけを揃えている少数精鋭スタイルだそうだ。

最初に握ってもらったのは、銚子港で水揚げされたイワシ。普通イワシといえば腐りやすいので鮮度が重要視される魚だが、このイワシは獲れてすぐに塩氷(水を氷と塩で冷やしたもの)に入れられた状態で送られてきて、そのまま冷蔵庫でわざわざ三日間寝かしたものだという。

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見るからにトロリと熟成しきった感じがする。

三日前のイワシというと、生で食べるのは怖い気がするけれど、目の前に出されたほんのりと赤みを帯びたイワシは、イワシ本来の香りが強くなってこそいるが、嫌な匂いは一切しない。

食べてみると、確かに新鮮なイワシとはまるで違う旨みの濃さ。身はとろけるような柔らかさになっており、その味は一貫で三貫分くらいの満足感がある。イワシって本当はこんな味だったのか。味が濃すぎて好みが分かれるかもしれないが、私は大好きなアジ、いや味だ。

「歯ごたえばっかりで味のしない魚を食べてもつまらないでしょ」という店主だが、同じことを私が家庭でやろうとするとお腹を壊すような気がする。銚子港から万全の状態で直送されたイワシを、完璧な保存状態で寝かせることができるからこそ可能な技。そして肝心なのは魚の状態を正確に判断できる店主の経験値。

築地などから仕入れる魚に関しては、寝かせずになるべくすぐに握るのだという。

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築地市場に勤める人達もお客さんとしてよく来る、月島の名店で修業したそうです。

ちなみにシャリは東京に比べてかなり大きい。これは寿司をつまみと考えるか食事と考えるかの違いで、この辺りでは食事として寿司を食べるので、基本的に大きめのシャリになっている。もちろん注文時にいえば小さめに握ってくれるそうだが、今日は地元サイズでいただいた。米もぱらっとした酢飯になる古米ではなく、ご飯としておいしい水分の多い新米を使っているのがおもしろい。知らずに食べたらおにぎりみたいと感じるかもしれない。

アジは立てて二日間寝かせる

お目当ての寝かせたアジは予約もせずにいきなり訪れたため、残念ながら品切れ。今朝鴨川の定置網で獲れたばかりのアジならあるそうなので、今日のところはそれを握っていただき、店主が考えたというオリジナルの寝かせ方を教えてもらった。

仕入れたアジは内臓などもそのままにして、泳いでいるときと同じ状態でタッパーに並べ、魚の状態にもよるが二日経ったくらいが食べ頃らしい。普通、腐りやすい内臓は早めにとったほうがいいような気がするが、立てておくことで、内臓の臭みが身に移らないのかもしれない。

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タッパーに立てていれるってこういう意味か。

この方法は修業先で学んだことでも、千葉伝統の方法でもなく、店主が独自で開発した方法なので、これが正しいのかどうかは食べた人が判断するしかない。目の前に新鮮なアジしかないのが悔しい。

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「本当はまだ出したくないんだけれど……」という朝獲れたばかりのアジ。これでも十分うまいが、やはり熟成したアジをぜひ食べてみたくなった。

今回はこちらからどんどん聞いたので、ネタの寝かせ方などを教えてもらったが、普通こういうことはわざわざお客さんに話したりしないのだという。

別に奇をてらってこういうことをやっているのではなく、店主がおいしいと思う寿司を突き詰めた結果がこうなっただけであり、「ネタを寝かすこと」が売りなのではなく、「うまい寿司を出すこと」が売りなのだ。今度はちゃんと予約をしてから来よう。

それにしても寿司を注文して「新鮮なネタしかなくてすみません」といわれたのは初めてだ。

この日食べたものの記録

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セグロイワシとオカラの酢漬けかな。こういうツマミが好き。

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外房の荒波で育った大原のタコは、味が濃くて筋肉質。ずっと噛みしめていたい味。

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サバは神奈川県の松輪サバ。皮下の脂に注目してほしい。

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コハダなどの江戸前の味もしっかりうまい。

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店主が煮たかんぴょうとワサビの巻き寿司が最高。奥の卵焼きももちろん自家製。

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こじんまりした店なので、来店する場合は電話予約をしてくださいとのことです。

追記:自分でアジを二日寝かせて寿司を握ってみた

それにしてもアジを立てた状態で二日寝かせた寿司とやらをぜひ食べてみたい。しかし鮨処切通は外房に店を構えているので、気軽に行ける距離ではない。そこで自分でアジを釣ってきて、二日寝かせてみることにした。

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脂の乗ったアジを釣ってきた。

まあ冷静に考えれば、釣り船に乗ってアジを釣ってくるくらいなら、外房まで寿司を食いにいったほうが早かった気もする。でもアジが釣りたかったのだから仕方がない。

釣ってきたアジをすぐに氷で冷やした海水に詰めてクーラーボックスで持ち帰り、そのままタッパーに立てて並べて冷蔵庫のチルドルームで二日間寝かせる。

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二日も寝かせるのがちょっと不安なので、数は少なめ。

二日間寝かせたアジは金色が強くなり、鼻を近づけるとだいぶ強くなったアジ独特の香りがした。もちろん腐敗臭のような匂いではない。

これを素人のお戯れとして寿司にしてみたのだが、確かに二日寝かせたアジはうまい。脂と旨みが身全体にまわり、ねっとりとしている。

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アジの旨みが熟成されている気がする。

釣った当日、そして一日置いたものも刺身で食べてみたのだが、香りの強さ、味の濃さではこれが一番。心配された内臓の臭みなどは感じられなかった。なんて調子に乗ると、うっかり腐らせてお腹を壊しそうだけど。

私のような素人が握ってこのうまさなのだから、本職がしっかりと寝かせて握ったなら、さぞうまいのだろう。やっぱりまた今度、鮨処切通にいかねばと、より強く思った次第だ。

【参考サイト】
鮨処切通

 

 

 

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