私的標本:捕まえて食べる

玉置標本によるブログです。 捕まえて食べたり、お出かけをしたり、やらなくても困らない挑戦などの記録。

漁業は三陸から生まれ変わるのか 勝川俊雄さんインタビュー2

※『地球のココロ』というクローズしたサイトで、2012年10月23日に掲載した記事の転載です。

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漁業という日本の問題を知ろう 勝川俊雄さんインタビュー」という、魚が好きな人間にとっては胃がキリキリと痛むようなインタビューを書かせていただいたが、今回はその第二弾。持続性を考えない日本の漁業制度の欠陥によって、乱獲を続けるしかない状況に対する、一つの答えを紹介したい。

三陸の漁業復興に可能性はあるのか

前回、三重大学生物資源学部准教授の勝川俊雄さんに伺った話をざっくりとまとめると、恵まれた漁場に囲まれているはずの日本の漁業の実情は、規制のない早獲り競争によって未成魚を獲りつくしつつあるという、悲惨なものだった。

海外では、漁獲量規制と資源管理をちゃんとやることで、漁業は成長産業となっているのにだ。

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勝川俊雄さん。

今回の記事では、そのインタビューの続きとして、地震による津波で甚大な被害を受けた三陸の漁業復興の可能性について聞いてみました。

インタビューから公開まで、諸事情(理由は続きを読むとわかります)で二か月も開いてしまった点はご容赦ください。
より詳しい話は、「日本の魚は大丈夫か 漁業は三陸から生まれ変わる」をぜひ読んでみてください。

日本の魚は大丈夫か 漁業は三陸から生まれ変わる (NHK出版新書)

日本の魚は大丈夫か 漁業は三陸から生まれ変わる (NHK出版新書)

 

漁師も仲買も小売も儲かっていないシステムからの脱却

玉置:「7月に被災地である宮城県の女川や石巻などを見て回ったのですが、ようやく瓦礫を撤去して更地にしたという状況を報道などで知ってはいたのですが、やはり自分の目で見ると、愕然としました。ここから漁業の全体を考え、グランドデザインをしていき、人や企業や自治体をまとめていくっていうのは、本当に可能なのかと不安です。」

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何度も遊びにいったマリンパル女川が、なにもなくなっていて茫然としてしまった。

勝川:「全然そんなことはなく、実際にもう動いています。ただ、震災前の元の状態に戻してもしょうがないんです。すでに震災前から漁獲量の低迷や後継者不足、漁協の赤字経営などの問題はあったので、漁師が魚を獲ってきちんと生活していける状態に向けて、漁業制度の検討を含めて、復興・復旧をしていかなければならない。」

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以前、獲れたてのホヤを食べさせてもらった寄磯。地盤沈下で満潮時には水没してしまう状態。

「確かにせっかく復興をさせるのなら、未来につながる形での復興がいいですよね。震災前から、三陸の漁師は儲かっていなかったのですか?」

「漁獲量と魚価、この二つを掛けたものが収入になりますよね。そこからコストを引かれるのですが、コストはもう削減する余地がほとんどない。そうなると、魚の量を増やすか、魚の値段を上げるしかない。ところが魚の量を増やすというのは、資源管理をちゃんとやれば増えるかもしれないが、最低5年くらいは掛かるし、国が先頭に立って規制をやらなければならない。漁業者自身だけではできないんですね。そうなると、漁業者が生き残るためには、値段を上げる以外に選択肢がありません。」

「漁師って、具体的にどれくらいの稼ぎなのでしょう。」

「たとえば岩手県の毛ガニ漁の場合、地元の市場で買われる値段がすごく安くて、1パイ150円とかなんですよ。1日の売り上げが3万円だとすると、燃料と餌代、手数料で1万引かれて、手元に残るのは2万円。ただ漁に出られるのは月に5、6回で、船のメンテナンス代なども掛かります。これじゃ全然食っていけないですよね。これをなんとか変えないといけない。」

「えー、ケガニなんて、買うと1パイ1,000円はするじゃないですか。」

「なんでそんな値段になってしまうのかというと、『漁師→組合→産地仲買→荷受け→仲卸→小売→消費者』というような複雑な流通があるから。たとえば小売であるスーパーマーケットは、あらかじめ販売価格を決めている訳です。週末のチラシに値段が入っているけれど、まだその魚を仕入れていないでしょ。だから自分達の利益を乗せた額でしか買わない。そこに仲買人とか流通業者が自分達の手数料を入れると、浜の値段って、もう決まっちゃうんです。だからいいものを獲ってきても、値段が上がらない。」

「消費者側からすると、それを聞くと複雑な気持ちになりますね。」

「難しいのが、漁師から消費者に来るまでの流通が、ずっと対立構造で、なるべく安く買い叩こうとしている人達が待ち構えている訳です。会社でいえば製造部門(漁師)と営業部門(仲買人)が喧嘩しているようなもの。そんな会社が儲けられる訳ないじゃないですか。相手にどれだけ損をさせられるかみたいな勝負になっちゃっているんです。そして誰も儲かっていない。それが現状なのです。」

販売パートナーの重要性

漁師から消費者までの間が複雑な流通システムになっていることが問題なのであれば、漁師が直接魚を売れば解決するのではないだろうか。最近はネット通販などに力を入れている農家も増えていることだし。

「漁師が直接売れば、漁師も儲かるし、消費者も安く買えるようになりますか?」

「残念ながら、上手くいかない場合が多いです。まず漁師は魚を買ったことがない。消費者の視点がないから、どうやって魚の魅力を伝えて良いかわからない。さらに、相場観がないから、漁師が付ける値段はすごく安い。薄利多売でなら売れるかもしれないけれど、それじゃ漁業全体の経済としては回っていかないんです。漁師が自分で売るよりも、ちゃんと適正価格で魚を売れる人とパートナーを組む方が良い。たとえばアラスカのカニ漁業は、漁業者と加工流通業者が経営統合をしました。カニを売った金額を漁業者と加工場で分ける仕組みにしたら、加工場がこういうカニを獲ってきたら高く売れるよっていえば、漁師はがんばってそれを獲ってくる。ちゃんと獲ってくれば漁師にリターンがある。Win-Winの関係です。」

「海で魚を獲る側と、それを買い取って価値を付ける側が一つになるだけで、だいぶ違う形になるんですね。」

「そこでやっぱり大事なポイントは、販売パートナーをどうやって作っていくかなんです。そこで被災地である陸前高田の広田町の漁師達とのミーティングを開いた後に、漁師から直で魚を買って、それなりの値段でいいものを出すというのが売りの四十八漁場という居酒屋チェーンを経営する、エー・ピーカンパニーの水産担当が知り合いだったので、広田町に呼びました。」

「おお、いったことないけれど、それを聞いただけで美味しそう!」

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後日、四十八漁場までニフティの清水さんと行ってきました。

「広田町にはケツブっていう貝がいて、これがケガニと一緒にすごく獲れるんです。でもお金にならないから海に戻していたんだけれど、漁師は普通のツブガイよりもこっちがうまいからこれを食うっていっている。なんで価値がないのかというと、殻に毛が生えていて見栄えが悪いというのと、殻がものすごく固い上にとても苦い肝があるから。ただ、身の味はものすごくいいので、ちゃんと殻を割って、肝をとれば、サザエなんかよりもおいしい。ケツブだとイメージがちょっと悪いので、『広田つぶ』という名前で出していますが、やっぱりすごくおいしいと評判です。」

「せっかくお店でお金を出すのだったら、そういうマニアックなものを食べたいですね。ケガニもいいけどケツブがいいです。」

清水:「私、絶対食べにいきます!」

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右が憧れの広田つぶ(ケツブ)。これが入荷する日と店にいける日がなかなか合わず、記事の公開が遅れてしまったのだが、待った甲斐のある味。コリコリ感がすごいのだが、決して嫌な固さではない。広田町の海をギュッと濃縮したような味の濃さと、新鮮な貝類だけが持つやさしい甘さが堪らない。

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ようやくケツブを食べられた清水さんも大満足。思わず2皿目を追加注文するほど気にいった様子。

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殻を見せてもらった。手前がケツブ。思ったほど剛毛ではなかった。

最終的には現地まで食べにくるモデルケースをつくりたい

価値のないとされている魚介類に、オリジナルの価値を持たせて適正な価格で売るだけで終わりではなく、勝川先生の目標は、もう少し深いところにあるようだ。

「これを普通にスーパーに並べていても、誰も食べ方を知らないから売れません。でもこれが飲食チェーンだったら、自分のところで板前がちゃんと処理すればいいだけの話だから、買えるんですよ。今までは全部海に戻していたものが売れるようになって、今まで1日3万円だった水揚げが数倍になりました。今は菅野さんという漁師が一人で獲っているから、品川店で入荷のあるときだけしか食べられないみたいですが。」

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店内には菅野さんの写真が。まさに魚を獲った漁師の顔が見えるお店。

「独自性があって、味がいい商品なんて、漁師にとっても提供する店にとっても、最高ですね。」

「この前、菅野さん達とその店に招待されて一緒にいったのですが、菅野さんがトイレに行って帰ってこないんですよ。何しているのかと思ったら、カウンターの客に俺が獲った貝なんだよって嬉しそうに説明していた。これってどっちにもいいんですよね。消費者にしてみれば、まさか獲った漁師が説明してくれるとは思わないし、漁師にしてみれば、自分が獲ったものを食べてくれる人の顔が見えるなんて、今後のやりがいになりますから。」

「漁師と消費者、どっちも満足度が上がりますね。」

「生産者と消費者の距離を縮めることで、新しい価値が出ます。大切なのは、安く売ることではなく、消費者の満足度を上げること。獲った人の顔が見える魚って価値があるんだなと実感しました。一緒に来た漁師仲間もやる気になって、今は地元にケツブの加工場を作ろうかという話になっています。可食部が少ないから、加工してから真空パックで送れば、送料も浮くし地元の雇用にもつながる。こうやって地域がうまく回っていけばいいですよね。そしてその次は
やっぱり地元に客を呼びたい。」

「東京の居酒屋で広田町の魚を食べてファンになった人に、今度は広田町まで来てもらって、さらに新鮮な魚を食べに来てほしいと。」

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四十八漁場には、持続可能漁法をキーワードに、各地から漁師直結で魚が届いている。ちなみに四十八漁場の意味は、科学専門誌「サイエンス」で、乱獲によって天然魚介類が壊滅するかもしれないと報告された2048年以降も、この日本で美味しい魚が食べられますようにという願いが込められている。

「水産物を東京に売っても、その先がない。そうじゃなくて、食べに来てもらうのが理想です。たとえば京都に間人ガニ(たいざがに)というブランドのズワイカニがありますが、それを食べに毎年100万人も冬の京都に来ます。アンケートを取ったら、カニがなかったら8割の人は京都に来ないという。ってことは、このカニの経済効果たるや、地域への貢献は漁獲高のみではないですよね。僕としては、広田町でこういう新しい仕組みをつくって、こういう風にやればいいんだねっていうモデルケースを作りたいんです。」

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店員さんからの素材の説明を含め、とても満足度の高い店でした。

「なんだか漁業の話だけでなく、地域活性化の話になってきまいたが、それも先生の範疇なんですか?そこまで考えて実際に行動をしている水産学の先生って、他にいないと思いますが。」

「うーん。僕が思うのは、水産学って実学なんですよね。水産業がこんなになっているのに、水産学の学者が大学に引きこもって論文を書いているだけではダメです。水産業がなくなったら、水産学なんて存在しえないじゃないですか。日本の水産業が生き残ってくれないと、僕自身困る訳です。漁業者は本当にみんな困っているんです。今までのやり方じゃ先はないけれど、どうしていいのかわからない。そういう困っている人がいるときに、自分の専門知識を使って手助けできるのであれば、それはもう実学研究者冥利に尽きるというか、なにをおいてもやらなければならないですよね。」

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気にいったので、ここに就職しました。というのはウソで、ポイントカード代わりの名刺をもらいました。

なんだか店の宣伝みたいになってしまったが、ここで言いたかったことは、消費者がちゃんと価値のある魚を適正価格で食べることが、継続的な漁業のサポートにつながるのではないかという話である。

三陸の復興への道は、まだまだ未整備の険しい道が多いと思うが、その道は今までの漁業が進んできてしまった道とは違う、明るい未来へとつながる道であると信じたい。

とりあえずケツブはおいしかったので、広田町までいって菅野さんを取材しにいきたくなりました。

 

【参考サイト】
勝川俊雄 公式サイト
エー・ピーカンパニー

 

 

 

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